「カルバニア物語」(1)?(4) TONO 徳間書店・キャラコミックス



 朝日ソノラマで出ている短編集とかは読んでいたものの、とりあえず代表作(?)になるこれには、これまで手をつけていませんでした。表紙だけでなんとなく、わたしの苦手な西洋FTモノだと思い込んでいたのです。しかし「ダスク・ストーリィ」がとても良かったので、ちゃんと通読してみることにしました。そしたら思いのほかの優れものでした。
 カルバニア王国という架空の世界を舞台にしているけれども、竜も魔法も存在しないそれは、FTというよりもどっちかというと、童話に出てくる王国あたりのほうがぴったりきます。その中世ヨーロッパにも似たのんびりとした世界で、若くして王女となったタニアと、男装のほうがぴったりくる未来の女公爵エキューの二人を中心にした人間模様が、連作形式で描かれていきます。だから、ある意味どの巻から読んでもいいくらいだけど、やっぱり最初から読んでほしいかな…。
 どのエピソードも捨てモノなしで水準高いです。一巻につき一つは特に当たりのお話が見つかります。その中でも、わたしのお気に入りは、やはり、三巻をまるごと使った「エキュー」でしょうか。どんなに自由奔放に育とうとしても、「女に生まれた」という事実が、どこまでも息苦しくエキューを締めつけていた頃に、彼女が不思議な青年貴族と出会うこの話。切ないなあ…。「おれはこのままでおれだ!」というエキューの叫びになんらかの感情を呼び起こされない元少女は少数派なのでは(そしてこれを少女というレベルだけの問題にかぎっていないあたりが良いなあ)。女だとか男だとかいうレベルではなく、ただ、自分が自分であるということが認められない苦しさ。それでも、エキューはエキューのままで、自由に生きることを選択できたのです。そして物語りは続いていく。いいなあ。
 けして派手ではないけれど、柔らかい描線の可愛らしい絵です。しかし、その絵だけの先入観で読むと、思いもよらぬ苦味も味わうことになるかも。それでも後味はとても爽やか。良い話を読んだなあ…と思えること請け合いです。おすすめ。

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