「哭きの竜」 能條純一 (竹書房・近代麻雀コミックス)



 「あんた、背中が煤けてるぜ」の名台詞で知られる能條純一の出世作。発表当時も読んでいたのだけど、まともに通読したのは初めてでした。
 文句なしに面白いですね。わたしは麻雀がこれっぽっちも分らないから、竜の麻雀の凄さというものはちっとも分りません。でも、竜というキャラクターの凄さは分る。そりゃ云ってしまえばカッコつけのクールぶったよくある主人公なのかもしれないけど、凡百のそういうキャラとはなにか一線を画すものがあるのですね。能條純一の描線の美しさと色気によるものも大きいかもしれない。なんせ竜と竜の女を比べたら、絶対に竜のほうが色っぽいんだから。端整で冷たいその横顔は、イカれた乙女の妄想感想になるけれど、まさに「魔性の男」。ツクリじゃないよ、作中でそう表現されているんだ。もう出てくるヤクザ出てくるヤクザ、みーんな竜を欲しがってしかたない。JUNEマンガとしても一級品ですねってああ書いちゃったよ。冷静に考えれば滅茶苦茶強い雀プロというだけなのに、それがすなわち幸運の代名詞となってしまうのだな。
 出てくるキャラクターはそれぞれアクの強い性格(ヤクザだから当たり前か)で、だからこそその個性がぶつかりあって抗争を引き起こす、というストーリーがぐいぐい展開されていくのだけど、それの中心にいるのはあくまで竜。座ったまま「ふっ」とか息を抜いたり(あれ笑ってるんじゃないだろう)「生ける者に本物も嘘も無い」とか観念的なことつぶやいて牌を光らせてる竜。カッコいい。しかし竜って麻雀打つのになんでこんなことばっか云ってるんだろうと思っていたら、それどころじゃない雨宮の登場には笑った。でも「ひとつさらせば…」ってあれはたしかにカッコいいです。竜のライバルがまたああいう細面の爬虫類系のいい男だというのは分ってらっしゃる、という感じです。
 やたらと大仰で芝居がかっているうえにやっていることは「ポン」だの「チー」だの云ってる麻雀なので、これを斜めに見据えてギャグとして読むひともいるだろうけど、そういう楽しみかたもけして否定はいたしませぬ。でも、やっぱりシリアスにカッコいいですよ。キャラクターの個性が際立っているので、麻雀を知らないひとでも楽しめます。熱い男のドラマがお好きなかたにはおすすめです。

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