「翔丸」 能條純一 (講談社)



 物語は、ある少年が己の頬をカッターナイフで切ることから始まる。ある三流高校に現れたその少年、竹田翔丸。かれが掌握していくのは、荒れた高校の不良グループ、ヤクザの大物、新興宗教の巫女、日本政財界の黒幕…。かれの云う言葉はひとつ「翔丸組に入るんだ」。
 ストイックな線とケレン味溢れる展開と構成が好きで、なんとはなしに読んでいた作家さんです。「月下の棋士」(小学館)と「哭きの竜」(竹書房)が代表作かな。しかしわたしは「ゴッドハンド」(小学館)が大好きでした。「月下の棋士」は元気が良すぎていまいちノレなかったの。
 この作品でもそうですが、このひとの描くキャラクターの表情は常に能面のようで、感情を生で現さない。その様式美が、美しい。もちろん、巧みな描線によって喜怒哀楽はきちんと表現されているのですが、それが生で伝わるというより、一枚薄皮を通して伝わってくるような冷たい線なのです。青年誌連載ということもあって、暴力やエロシーンもあるんだけど、どれもどこか空々しい。それがまた、この「翔丸」という少年の存在感にぴたりと合っているような気がします。仇キャラとの対決の際に「???性格とはすべての非本能的努力の比較的連続体系!!」って、カッコいいじゃないですか。一歩間違えればすごいギャグなんだけど(笑)。ここに限らず、翔丸って笑うぐらいに無茶だ…。
 とにかくストーリーの先を読ませる力がすごい。思わせぶりな小道具や伏線が盛りだくさんなだけに、最終ページを読んだあとには、落ちはこれ?という声もあるかもしれない。が、こんな「悪の天才」を描いた話に、単純な勧善懲悪や謎解きを用意されてもそれこそ「落ちはこれ?」で終わってしまうと思う。わたしは好きなラストです。

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