「電波オデッセイ 全4巻」 永野のりこ (アスキーコミックス)



 あーダメだ。ダメダメだ。もう本当にダメ。泣きっぱなし。
 一巻だけ買った翌日に、慌てて次の巻を買いに本屋に走らずにいられないこんな気持ちってどれくらいぶりだろう。続きを読むまでのあいだ、キャラクターたちの運命が気になって気になって、あーなってたらいいなとかあんな台詞を言ってやればいいんだとか、そんなことで頭がいっぱいになったのなんて、本当にどれくらいぶりだろう。そしてそれを買いこんで、ビニール袋を破る手間すら惜しく感じて座り込んで読み始めたなんて、台詞ひとつ場面ひとつをじっくり味わうことよりも、ただその展開の続きが気になって気になって、ただひたすらページをめくって、最後のページを開いた瞬間に、ぶわっと涙が溢れたなんてさ。しかもそのまま、再びまた最初の巻を手にとって、今度こそじっくりと読み始めたなんて。この歳でマジでやられちゃったよ。これがマンガだよ。
 悲惨な家庭事情のなかで学校にも行かず、たった一人でひきこもっていた主人公のもとに、ある日突然現れた「オデッセイ」なる謎の人物。かれの導きにより、主人公は、はたから見たら立派な電波ちゃん、でも、以前とは違った強さを持ったオンナノコになって生きていくのでした…。というのがおおまかなストーリー。そこに色々なその他の登場人物がからんで、またかれらなりのストーリーが展開もしていくんだけど、それら全部、捨てエピソード無し。あー、ごめんなさい、永野先生、ナメてました、という感じです。オタ受けする話と絵柄とアレがナニする話が多かったから、まさかここまで正当に、間違いのない「マンガ」を描いてくれるなんて思ってなかった。むしろ、オタ向けだからこそ、わたしのなかでここまでのクリーンヒットになったんだろうけど。なんか、いちいち、どこで泣いたとか、このシーンが良かった、とか説明するのもむなしい。全部読めばいい、という感じだから。
 しかしこのマンガがクるひと、というのは、もうどんなにどんなに振り払っても聞こえてくる泣き声に立ち止まり、思わず振り返ったらやっぱりそこに昔の自分がいた、よーなひとだったり、頑張ってまっすぐまっすぐいきたいのになぜだかどーしてだかどーしてもうまくいかなくて息が出来なくて、でもそれってよく見れば自分で自分の首をしめてたんだなんてことがあったりとか、ひざを抱えてうずくまる押入れのなかのこどもを忘れられないひとだったりするんでしょうな。そいでもって、「オデッセイ」という名前はもたなくても、ひとでなくても、声でなくても、現実に存在するなにかではなくても、確実にそこにいる「なにか」と交わした言葉(もしくは投げかけられた言葉)によって、救われたり浮き上がったりしたひとなんでしょーな。それって、もう、なんでもいいんだろうな。ひとによっては、それが「楠本柊生」なんて名前をもつ軍服マントのおにーさんかもしれない。いいじゃん、わたしにとっては白い顔したアクマさんだったよ、あのひと、まだ「うはははは」て笑ってるよ。そしてわたしはまだあのひとが大好きです。自分のなかの「あのひと」が、現実世界に存在するあのひととは、複雑に違ってしまっていることも分かっているこの歳になっても、どーしようもない行き止まりで立ち止まったときには、やはり「あのひと」のことを思い出す。
 だからこのマンガは、そういうひとの為のマンガです。普通のマンガ好きなひとが読んでも良い話だと思いますが、やはり、わたしはこれをそういうひとに読んで欲しい。ひざを抱えてうずくまるこどもの影を捨てきれないひと。もしまだそのひとが「オデッセイ」に出会ってなかったとしても、この本自体が「オデッセイ」に成り得るのかもしれないから。おすすめです。

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする