「あなたとワルツを踊りたい」栗本薫(ハヤカワ文庫)



 相変わらずこのひとの文章は、わたしにはすらすらと読みやすい。でも、すいませーん、このラスト近くってジュディス・ロスナーの「ミスターグッドバーを探して」(ハヤカワ文庫)じゃないですか?20年前の小説(というか映画の方が有名ですな)であっても、わたしにとっては大事な小説で何度も読み返してるんだから、引っ張って来ないで欲しいな…。
 しかしこの小説に出てくる登場人物はみんな自分の気持ちだけで頭が一杯なのだな。そしてその充足を他人に求めるあまりに、他人を傷つける。追っかけの女の子も追いかけられる俳優もその俳優に恋する男優もストーカーの男も。そして追っかけの女の子が、自分が追っかけをするのはその相手になりたかったんだ、それが駄目ならせめて、そういう特別な人間に自分を認めてもらうことで、自分という存在を確かめたいからだ、というくだりは、まあ、目新しい視点ではないけれど、やっぱり少しばかりは痛いですね。ちぇっ(苦笑)。でも人間って相手が別に特別な人間じゃなくても、それが誰であっても、自分という存在を誰か他人が認めてくれることは絶対に必要なのではないかな…。しかし、同時にここがひっかかる部分でもある。主役の子は、こういう認識に達したからといってなにも変わらないからだ。変わらないのならば、自覚させる必要もないはず。作者の主張を、そういうかたちで出すことに何の意味があるのかな。

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