「あのときわたしが着ていた服」 アイリーン・ベッカーマン (飛鳥新社)



 アメリカの50代のキャリアウーマンが、少女の頃から現在までの自分の人生について、当時身に付けていたファッションとともに語るもの。1940年代から90年代にまでかけて語られるその自分史を読めば、家族の死、少女時代の恋と結婚、出産、離婚という流れに沿った飾り気のないイラストが功を奏して、著者を身近に感じることが出来るものになっていると思います。なんといってもイラストが良いのです。こういう色の服を着ててね、ああいう髪のかたちが流行っててね、といったおしゃべりの合間に、色鉛筆とカラーペンで広告の裏にでも描かれたかのような、その線。一見稚拙に見えるかもしれないけれど、それがかえって良いのですね。これが写真だったら興ざめ。
 ファッションという入り口が、同じ女性として親近感を覚えやすいものだったのかもしれないけど、人種も国も世代も違うはずなのに、それなりに波乱万丈だったこの女性の人生に付き合っていき、最後に4歳の孫娘を前にして呟く述懐を読むと、胸が詰まるものがありました。出来れば日本人女性のこういう本を読んでみたいな。大橋歩が描いている一連のシリーズに近いものがあるのかもしれないけど。たとえば樋口恵子とか、書いてはくれないものでしょうか。

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