「ゲルニカ1984年」 栗本薫 (早川文庫)


 再読。以前読んだのは10年近く前ではなかったか。それでもその重苦しい雰囲気だけはよく覚えていて、読み返してみたのだけど、ストーリーはまったく記憶に無かった。しかしそれもそのはず、ストーリーらしいストーリーは無いに等しい。栗本薫は、たまにこうやって滅びへの諦念だけで構成されたようなお話を書く。それはこのひとの基本テーマのなかに「時の流れ」というものがあるからだろうけど、「滅びの風」なんてまさにそれでした。評論だけど「タナトスのこどもたち」もそうだ。
 で、この話はといえば、ある日突然に「戦争」への不安に駆られたTVプロデューサーが主人公なわけなのだけど、その様子が立派な電波系妄想としてもとらえられるように書かれているうえ、ほとんどがこの主人公のえんえんと続く独白で構成されているもので、それに辟易するひともいるかもしれない。まあ、このテーマに軍服好きのわたしがなにを云えましょうや。ただし、ここではあくまでも「戦争」という仮想をとられているものの、主人公の不安は、結局は「破滅」「滅び」へのどうしようもないレベルでの抵抗でしかない。「戦争」そのものがテーマだとすれば、これとよく似た、小松左京の「戦争はなかった」という短編があります。そっちのほうがより恐怖。 しかしながら「滅び」というキーワードにひっかかるひとにはおすすめです。 

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