「バトルロワイアル」 高見広春 (太田出版)



 近未来の架空ニッポン、大東亜共和国を舞台に、年一回行われる殺人ゲーム「プログラム」の対象に選ばれた香川県の中学三年生たち。ゲームはクラスごとに実施され、生徒達は与えられた武器で互いに殺しあい、最後に残ったひとりだけは家に帰ることができる…という内容は、かなりの評判になったので御存知のかたも多かろう。映画化されたときにその残虐描写が国会の論議の対象になったことはニュースでも大きく取り上げられたしね(そのおかげか映画は大ヒット。同時期に新作映画を公開した北野武監督の「ヲイラの映画も暴力いっぱいだから国会で取り上げてくれないかな」という一言はナイスですな)。しかし実際に政治家さんが攻撃していたのは大きく設定を違えていた映画の残酷描写であるとはいえ、原作を読んでいると、実際にかれらの気に触ったのはこの皮肉たっぷりな「大東亜共和国」という設定ではないかなという邪推すらしたくなります。まあ、まず読んでないだろうけどな。
 わたしは映画は未見だけど、実際に本書を読んでの感想をひとことで云うならば、「みずみずしい青春小説」です。もちろんそれ以前に、ラストまで読者に息もつかせず読み通させる力を持った文句無しのエンタテイメントです。それなりの本好きなら、まず読んで損無しでしょう。時折挿入される作者の視点からのツッコミのような文章も、今風で良い。以下ネタバレ→そりゃ、ラストは読めるんです。こういう設定なら、最後もしくは最後ぎりぎりまで生き残るのは主人公に決まってるし、川田が秋也と典子を殺したことにして生かしているであろうことも、ちょっと数多くこの手のジャンル小説を読んでいれば読める展開。そしてそうなったときに、川田が我が身を犠牲にすることも、お約束といえばお約束。しかしながら、そういったことはこの物語にとっては穴にはなりません。読み進めるうちに、気にかかるのは最後に誰がどう生き残るのか、ということより、生き生きと書かれた3年B組のクラスメイトひとりひとりの行く末になっていくのだから。
 にしてもこの中学三年生という設定が絶妙なのだな。こどもが殺しあうという設定がことさらショッキングだというわけでなく(それでいうならゴールディングの「蠅の王」もあります。これも島だな)その年代のこどもであるからこそ、大人であれば当たり前の理屈通りの行動や言動に走ることなく思いがけない行動を取り、結果的にそれがキャラクターに命を吹き込んでいるのです。
 わたしがこの本で泣いた二カ所は、中盤で、瀬戸豊が三村信史に「金井はすごくきれいだったよ」というシーンと最後の杉村弘樹と琴弾加代子のシーン。これはかれらがこの年代でなければ説得力を持たないシーンだと思う。まさに、(ああ、何ものにも代え難い、それは)と表現されるのにふさわしい、この綺麗な気持ちに泣けました。ああ、そうだよ、この歳じゃないとこういう気持にはなれないと思った。なんというかイノセントでピュアなの。だから青春小説だなと感じた。別に恋愛描写に限らずとも、秋也と典子がヒーローとヒロインであるとすれば、まさに暗黒のクイーンとキングにふさわしい相馬光子や桐山和雄などでさえも、少年少女としての純粋さに満ちているとわたしなどは思うのですが。
 だから、これが残酷描写などの面だけを取り上げられてどうこう云われるのは寂しい話です。この物語でのテーマ曲であるブルース・スプリングスティーンの「明日無き暴走(BORN TO RUN)」を知っているひとならば、ラストで繰り返される歌詞とこの曲の持つ突き抜けたような絶望と明るさこそが、いかにこの話に相応しいか分かるはず。おすすめの青春活劇です。

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