「不気味な話」 江戸川乱歩 (河出文庫)



タイトル通り、江戸川乱歩の作品のなかでもとくに幻想的かつ猟奇の匂い漂うものばかり15篇をセレクションした一冊。乱歩といえば、いろんな出版社から出ていますが、この一冊はとくに選出のセンスがよろしいかと思われます。乱歩の猟奇系の代表作は(短編なら)ほぼ網羅されています。
 このなかでもわたしが好きなのは「押絵と旅する男」「人でなしの恋」「虫」「鏡地獄」「踊る一寸法師」です。どれも基本はせつない情熱であるかと思いますが、間違ってますか。(これは長編だけど「孤島の鬼」なんて、ラストは涙せずにはいられないせつないJUNE作品ですよ。譲らん)
 これらの作品のすべてが60年以上前に書かれているのにも関わらず(むしろそれゆえに?)その凄みと幻想はまったく色あせてはいません。ここまでの倒錯がよく許されたなあと思うほど(誰でも言うことでしょうが、両手両足を失った傷痍軍人とその妻の物語「芋虫」なんて、今これと同じレベルのものを書くことを許される作家が存在するでしょうか?)、だからこそここでなくては味わえない世界が広がっています。乱歩の入門書としておすすめです。

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