「少女怪談」 東雅夫・編(学研M文庫)


「少女」をテーマにした恐怖小説のアンソロジー。既読のものもいくつかありました。つまりそれだけ名作揃いというわけです。「少女」に過剰に思いいれしたロリ趣味なものは無かったので愉しく読めました。以下、それぞれのなかから、とくに気に入ったものの感想を。
 岡本綺堂「停車場の少女」:戦前の作品とは思えない文章センスの瑞々しさにうたれました。あっさりとした話だけど、かえってそれがそそります。高橋葉介の絵が似合います。
 石原慎太郎「鱶女」:こんな機会でもない限り、氏の作品に目を通すことはないと思われるわたしにとって、ああ、作品と人物はやはり別物なのだなとげふげふごほ。やっぱヨットだったけどさ。それでも、海の匂い漂う雰囲気ある一作でありました。怖くはないけど、情景が浮んでくる。
 生島治郎「頭の中の昏い歌」:既読(筒井康隆編の「異形の白昼」で。この本もおすすめ)。校正の仕事に疲れた独身男性が犯した少女殺人。しかしその死体はかれに思わぬ安らぎをもたらす…というストーリー。やっぱりなんというか、誤解を恐れずに云ってしまうと、もうこれはある種の殿方のロマンなんじゃなかろうか。しかし「コレクター」とか乱歩の「蟲」とかと同じその手のネタと思いきや。どこまでも幻想的な世界が、ほの暗く病んだ精神の匂いも漂わせつつ、現実世界を展開している。これは本当に怖いです。見事な作品だと思います。
 松浦寿輝「宝篋」:まず文章の魅力が大きかった。ほとんど改行なしで連なっている文章が、すさまじく美しい。そしてその文で綴られているからこそ、幻想的な内容が際立つ。素敵。
 山尾悠子「通夜の客」:山尾悠子は初読でしたが、とても面白かったです。連作だそうですが、もっと読みたくなります。菊の花、5月の日本、黄色い着物といった小道具とそれがもたらすイメージが印象的です。
 大原まり子「憑依教室」:なんだかここにいたって、ようやくいわゆるホラー小説が読めたような気がします。幻想的ではない、恐怖としてのホラー小説。こういう少女の生理的な部分に根ざした恐怖、というのは、やはり女性作家じゃないと駄目なのかな。ラスト近くによって明らかになる語り手の正体と、それがもたらす最後の恐怖が、圧倒的です。
 小池真理子「ミミ」:ひええ怖いよう。これが一番怖かった。交通事故で家族を失った老女とその孫、同じく家族を失ったピアノ教師の主人公。両者が関わったときに、静かに存在し始めるこの世ならぬもの。ラストの静けさが、いっそう背筋が寒くなる感覚をもたらします。
 恐怖小説のアンソロジーというのは、たくさん出ていると思うけれど、やっぱり玉石混合かなあと思うのです。これはそのなかでも、玉そろいということで、おすすめ。でもこのテーマなら、山田正紀の「少女と武者人形」とかも入れてほしかったかなあ…。

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