「怪獣文学大全」 東雅夫・編(河出文庫)



 こちらは「怪獣」をテーマにした作品を集めたアンソロジー。渋めの作品が並んでると思いきや、橋本治の怪作「マタンゴを喰ったな」とかもちゃんと収録されてるあたり、バランス良いです。以下は、とくに面白かったものの感想を。
 「発光妖精とモスラ」中村真一郎・福永武彦・堀田善衞:東宝映画の「モスラ」を見たのはいつだったか記憶にないくらいなので比較できないですけど、古風な感じがかえって新鮮でした。小美人たちが愛らしい。未開の島とか原住民とか、そういう存在が見当たらない現在では、こういう怪獣は姿を現せないのかも、という気持ちになりました。
 「闇の声」ウィリアム・ホープ・ホジスン:海から来た異形のものが、主人公に自らの物語を語るという形式は、由緒正しい怪奇小説という感じです。「マタンゴ」の原典、だそうですが、キノコ菌の不気味さと、運命がただ投げ出されたままで解決しないもの哀しさが印象的です。最近の小説だったら、キノコ退治に行っちゃうような気がする。それをしないからこその、この読後感がいいです。
 「マタンゴ」福島正実:で、その「闇の声」を下敷きにしたのがこれです。映画「マタンゴ」は本当に幼い頃にテレビで見て、なにがなんだか分からないなりに怖くて怖くて、それからキノコが食べられなくなりました。わたしにとってのトラウマ映画。ストーリーはこれっぽっちも覚えてませんが。この小説は、原典関係なく、時代を感じる部分も多々ありながらも面白く読めました。ラストが精神病院ってあたりがまた由緒正しい気がします。
 「マタンゴを喰ったな」「更にマタンゴを喰ったな」橋本治:わたしは橋本治のファンです。よってこれも全面的に肯定します。無茶苦茶だとか、遊んでるだけに見えようが、そういうものだから良いのです。あなたも「またんご」の語感の気持ち悪さをご堪能あれ。
 「ガブラ」香山滋:古いんですけど、すごく面白い。放射能によって狂った海洋生物たちのイメージがたまらないです。しかしその落ちはアリなのでしょうか。すごくびっくりした。
 「日本漂流」小松左京:わーい小松左京ってこういうスケールの大きいホラ話をたまに書くんだー(笑)。そしてわたしはそれが好きなのです。「物体O」とか。とりあえず、この「日本が泳ぎだす」お話は一読あり。笑ってください。怒らないでね。
 全体的に古い作品が多いので、時代を感じるとキツイかなあ?そういうものかもしれないけど、やはり東宝怪獣映画ノリのものも多いし(それが当然のことなのは、巻末解説を読んでも分かります)。でもそれを補うだけの魅力はあると思います。怪獣好きなら読んで損なし。

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