「死のロングウォーク」 スティーブン・キング (扶桑社ミステリー)



 かのベストセラー作家、スティーブン・キングが別名(リチャード・バックマン)で出版したうちの一冊で、原型はキングが大学生の頃、もちろん「キャリー」以前に書かれたもので、実質上の処女作ともいうべき作品らしいです。
 まずはおおまかなストーリー紹介。全体主義に支配された近未来のアメリカで、14歳から16歳までの少年100人を集めて年一回行われる「ロングウォーク」という競技があった。国境を出発し、コース上をただひたすら南へ歩くだけおちう単純な競技だが、歩行速度が時速4マイル以下になると警告を受け、一時間に三回以上警告を受けると射殺される。最後の1人が生き残るまで(つまり99人が力つき射殺されるまで)続くこの競技に参加した少年たちは…というもの。
 云っておきますが、本当にえんえんと歩くだけ。そして足にまめができたり、転んで怪我したり、単純に疲れたりして、歩行速度が遅くなり、警告を三回受けた少年はみな兵隊(マラソンの如く車が併走しているのだ)に撃ち殺されていく。この競技が催されていることへの疑問や社会背景は、主人公たるレイの回想や少年達の会話を通してぼんやりと描写されているけれど、それは大きな比重を占めておらず、あくまで主役は「ロングウォーク」、少年たちがえんえんと歩いて、またひとり、ひとりと倒れていくその様子です。この手の話にありがちな裏切りや脱走はほとんど登場せず、出てきても成功しない。物語のラストまでこの競技の設定は揺るぐことがない。それを飽きさせずに最後まで読ませるんだからすごいっすよ。なんせ本当に歩いているだけ。短編ならまだしも長編なのだから、これが面白いかどうかは、出てくる登場人物がそれぞれどんな少年でいかに生きた存在であるかを小さなエピソードの積み重ねや会話だけで表現することが出来るかどうか、にかかっている。そういう意味では、いわゆるキャラ萌えなんかとかは無縁だとは思うけど、この作品は成功しているでしょう。だって、最後に誰が残るか、それも、「どう」生き残るかが気になって夢中になって読んだもの。
 云ってしまえば、この「ロングウォーク」という競技の設定が勝負のアイデア小説ともいえるので、「それだけ?」というひとにはそれだけの話。しかし、単純かつ極限な状況下での物語こそ、ただの書き割りでない魅力ある人物を書くことが出来る作家の力の見せ所でもあります。これはキングの最良の作品とはいえないけれど、そのレベルではかっても読む価値はあると思います。星みっつくらいのおすすめ度かな。
 余談。わたしはキングのバックマン名義の作品はけっこうどれも好きなのだけど(「ハイスクール・パニック」ですら好きだ。呆れろ)これと同じようにディストピアな近未来を舞台にした「バトルランナー」もこれに負けず劣らず陰鬱です。シュワちゃんで映画化されてますが、ほとんど別物(BasedではなくInspireという表記がふさわしいくらい)なので、これが気に入ったかたはぜひご一読をおすすめします。

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