「水無月の墓」 小池真理子 (新潮文庫)



 「恋」で直木賞を受賞した作家、ということしか知らず、その「恋」も未読だったわたしがこの本を手にとったのは、何年か前の「幻想文学」に掲載されていたインタビューを思い出したから、というお手軽な理由から。直木賞作家、というと構えてしまいそうだけど、「幻想文学」に著者インタビューが掲載されるだけあって、ここに収められている8編は、どれも幻想と怪談と昏い雰囲気に満ちた物憂げなお話ばかり。すべて女の一人称で書かれているためか、たまたま平行して読んでいたシャーリー・ジャクスン(リスペクト!)の短編集の影響もあいまって、両者に共通する若い女の孤独、というキーワードにわが身を置き換え、暗い気分になったなんて内緒。いやその…。
 派手なスプラッタ描写も化け物も登場せず、かといって「一番怖いのは人間の心」的なお定まりサイコホラーでもない、純粋な超自然的怪異談に、ちょっと背筋が寒くなるような感じがします。こういうのを現代の怪談というのかもしれない。
 8編に大きく当たり外れはないけれど、とくにおすすめなのは、ラストでどきりとする「足」、ようやく行き着いた結論が物悲しい「ぼんやり」、怒りも悲しみも憎しみもただ微笑んでやり過ごしてきた女性とその理由を描いた「神かくし」、ラストの情景が美しく、先生と助手の関係に密かに萌え(…わたしは最低な人間です…)な「水無月の墓」の4編。
 幻想的な内容でありながら、文章はとても読みやすいです。怖いお話が好きなかたはぜひ。

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