「海神別荘 他二篇」 泉鏡花 (岩波文庫)



泉鏡花は高校生の頃、「高野聖」を読んで、その内容の耽美さとイメージに目がくらむような思いをしたものの、旧かなづかいに歯が立たなくて途中で挫折した覚えがあります。けれどもそのイメージの奔流にいつも惹かれてはいた、というわけで再チャレンジ。
 この一冊にしたのは、春日聖生がマンガにしていたので、タイトルを憶えていたせい(マイナーかな)。さすがに高校生の頃とは違って、今度は読み通すことが出来ました。
 その美しいイメージと世界観に痺れた。台詞ひとつ、描写ひとつ、いまの凡百のファンタジー作家がかなうものではないですね。公子の傲慢さ、ひとでなさがくっきりとした性格設定が、この話のこの世でなさを際立たせています。美女の凡庸たる性格と、その最後の翻意もふくめて。美女が最初は、ごくフツーに愚かな感性の持ち主であるからこそ、最後の最後で公子の刃を莞爾と受けようとするくだりが、すごいのですな。
 尋常でないこの世でなさ、でもとても美しい世界です。 

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