「煮たり焼いたり炒めたりー真夜中のキッチンでー」宮脇孝夫(ハヤカワ文庫)



 高名なミステリ翻訳家にして評論家の料理本。聞いたことはない名前だけど手軽な材料で作れそうな料理が紹介されていて面白かった。ムサカはこういう風に作るのね。わたしは料理に関する本を読むのが好き。正確には、料理や食べ物に関する描写を読むのが好きなのだ。ジョナサン・キャロルを読んでほうれん草のラザーニャやおそろしく大きくてべたべたとしたチョコレートケーキを夢見たり、村上春樹がエッセイで書くどんぶりいっぱいのサラダやうさぎ亭のコロッケを食べてみたくなり、大藪春彦の10枚のパンケーキと1リットルのオレンジジュースと500グラムのベーコンに朝から元気な人だなと思う。要するに食いしん坊です。ちなみに自分で料理するのはまったく好きではなく、それで済むならカロリーメイトでも囓っていたく、他人に作ってもらうのと外食が大好きというどうしようもなさ。でもさ、たまたま女性用生殖機能を持ち合わせている身体に生まれたからって、なんで料理を作るのが好きでなきゃいけないのかさっぱり分からない。掃除と洗濯は好きなんだからそれでご勘弁していただきたいものである(誰に)。
 そんなわたしの好きな小説にその名も「料理人」(ハリー・クレッシング/ハヤカワ文庫)というのがある。おだやかな田舎町に存在する二つの名家。そのひとつに痩せた黒い鷲のような新しい料理人が雇われる。かれとその料理によって起こる静かな変化がやがては村中を支配していくその過程は、なまじのスプラッタホラーでは出せない不気味さ。カポーティの「ミリアム」にもちょっと印象が似てるかな。わたしはコンラッドの作る赤鳥の料理が食べたいです。

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