「鳥ーデュ・モーリア傑作集」デュ・モーリア(創元推理文庫)



 デュ・モーリアといえば映画になった「レベッカ」が有名ですが、この短編集にも同じく映画になった「鳥」(ヒッチコックのあれですな)が収められています。原書は1952年発行、ということもあって、古風なサスペンスや奇妙な話が主ではありますが、決して古臭いことはなく、十分に現代でも通用するセンスの作品ばかりだと思います。人間ってそう変わらない。端整な文章で、淡々と、しかし丁寧に語られる人間のちょっとした狂気とか過ちが静かに怖い。シャーリィ・ジャクスンとかとも共通する雰囲気がします。
  8編が収録されていて、どの作品も味わい深いのですが、わたしがお勧めなのは「恋人」(原題は「KISS ME AGAIN,STRANGER」←本編読んだ後だと、泣ける題です)。戦争後、平凡な生活を不満もなく過ごしていた青年が、映画館で風変わりな女性に出会う。かれは彼女にどうしようもなく惹かれてデートに誘い、キスをする。けれども、彼女は奇妙な振る舞いのまま、かれを受け入れるでも拒むでもない。それでもかれは彼女との将来を夢見、贈り物を購入して、彼女の勤め先へと向かうけれども…。ビッグサプライズとかどんでん返しが用意されているわけではないけれど、ロマンティックな雰囲気と、ラストの静かな悲劇が印象に残る作品です。
 あとは、避暑地で退屈した公爵夫人が地元の写真家の青年と出会い、戯れの気持ちから過ちを起こす「写真家」も、非常に後味がよろしくない一作でおすすめ。人生の暗転とは思わぬところで訪れるものとはいえ…。わたしは公爵夫人に同情したな。
 モーリアの作品はこれからも翻訳されるようなので、楽しみにしていたいです。こういう、女性の筆で書かれた奇妙な物語というのが好きなのです。

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