「セックスのあと男の子の汗はハチミツのにおいがする」おかざき真里(祥伝社・フィールコミックス)



 3編の短編と1編の中篇が収められている作品集です。どの作品にも共通しているのは、男と、その極地に存在する少女の姿です。男というイキモノを拒否したり(「セックスのあと男の子の汗はハチミツのにおいがする」)、当たり前のように男という存在を受け入れていく周りとの距離に戸惑った少女が、思わぬ場所から回答を見つけたり(「おねえちゃん」)、男の子との関係に悩む少女が、同性の妖精を育てたり(「草子のこと」)、男の子は女の子の遊びには入れないのよねという二人の少女だったり(「雨の降る国」)。
 けれども、ここにあるのは、単なる少女趣味や男ってフケツ!とかいう潔癖主義だけではなく(あれって不思議だ。女だって清潔じゃない部分はいっぱいあるのにね)、男というイキモノの存在も認めつつ、でも、それなしじゃ本当にダメなの?ていうか、それよりも必要だったり大事なものもあるんじゃないの?と問いかける姿勢であるような気がします。
 むしろ、男のヒトはこんな楽しいわたしたちの事を知らないでしょ、という奇妙な優越感もあるかな。「シャッター・ラブ」のときも思ったけど、結局、男は少女たちの関係性に入ってこれないんだよね。男としてするべきことはいっぱいこなしたのに、どうして、と問われても「だって貴方は男だから」のひとことで終わってしまいそうなこの世界。おかざき真里は決してそれだけを描く作家さんではありませんが(ちゃんと男女の恋愛とか、その大事さも描けるひとだと思う)、しかしこういう空間が世の中にあったっていいよなーと思うわけです。しかも、それだけだったら傲慢になるかもしれないのだけど、それをこの腺病質でメランコリックな線と、不安定なようで絶妙な画面構成で、しかし明るく表現されるから、嫌味なく読めるのですね。まさに才能。
 この一冊も、絵は文句なしの美しさと線の細さで、相変わらず溢れかえるような草の洪水と降りしきる雨です。これがあるから、おかざきが好きです。

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