「太宰治全集 2」太宰治(ちくま文庫)



 やっぱri「女生徒」が一番好きだ。わたしは太宰の書く男性主人公はなんだかとっても好きなときと全然駄目なときがあるのですが、女性の視点で書かれたものは、本当に巧いなあと思う。なんでこんなに分かるんだろ?この「女生徒」にしても、60年以上前に書かれたものなのに、世情風俗以外、その芯に描かれている少女性はまったく廃れていない。愛らしく、お調子者で、感情に揺れ動き、夢を見る少女。この不思議と舌たらずできょときょと周りを見回してばかりいる、それでも大人びた眼鏡っ娘(なんだよ)は、絶対に、この平成の世の中にも存在している。なんでこんな少女を書けたんだろう。溜息。あとは「富嶽百景」も好きです。ここには清廉とした他人への優しさがある。
 そしてこの本に収められたもので、他ではあまり見ることがないと思われるものとしては、未完の小説「火の鳥」が面白かったです。心中で死に損なったバーの女(後に女優になる)、高野幸代が、彼女に惹かれる男たちのあいだをさ迷う物語。未完だけあって、ものすごく途中で話が途切れてるのが勿体ないけど、とにかく最後まで読ませます。台詞がいいんだよな。ちっとも古くない。そして、幸代という女性が、本当にどういう人間なのかが分からないままでいるのが、面白い。よくあるファム・ファタールでも悪女でもなく、むしろ幼女のように頑是無く、ただ自分を生かすことだけを考えているような。賢いのか愚かなのか分からない。面白いなあと思います。

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