「アスタロト(全二巻)」魔夜峰央(秋田文庫)



 魔夜峰央といえば「パタリロ!」なんですが、このアスタロトは作者の持ちキャラとしてはパタリロよりも古い魔界の大公爵。パタリロにも出演してた時期があるのでご存知のかたもいるかなあ。「パタリロ!」自体はまだ連載が続いていてこないだ71巻が発売されました。なにぶん長い連載なので、そのあいだにはどうにも低調な時期もあったんですが、いまは面白いですよ。乾いたユーモアで。それで、最近の他の魔夜峰央を読んでみる気になったのがこの「アスタロト」です。あのアスタロトがクトゥルーの古き神々と対決です。素直に面白かったです。独特のユーモアと、古い怪奇小説のノリ、それと芯にある健全な感性が、なんともいえない味を出してる。この超然としたキャラクター、いいなあ。
 絵も、すでに職人の域に達した単一な線で描かれていて、わたしは好きです。なんつーか、魔夜峰央というひとは確かに古いひとであるんですが、ずっと奇妙なオリジナルな線を持ち続けてるひとだなと思います。パタリロにしたって、あのギャグセンスとかは他の作品に影響があったかもしれないけど(あと耽美趣味の一般化も)、この絵は他に見ないよな。細川智栄子先生の絵が他にも見ないのとはまた違う意味でな(キャロルー)。絵自体は、ちょと古い。でもそれを絶妙なバランスで配置するあの画面構成がオリジナルなひとなんだと思う。だからそういう意味では古くならないんじゃないかな。下描きもほとんどしないひとなんだってね。センスだ。このマンガで云うなら、1巻のVol.2、最初の見開き2Pを使ったサバトの様子にしびれました。でも同時にこの話に出てくる犬にはびっくりしましたが。あとでその正体を知って、もっとびっくりしました。ありえない。魔夜先生はすでに絵がうまいとか下手とかいうレベルを超えてらっしゃるのかもしれない。ここにUPできないのが残念です。失礼ですが、わたしが記憶で描いたAIBOに並びます。
 ストーリー展開は、アスタロトをはじめとする魔界の四大実力者たちの全面戦争から、魔界対至高界の戦争にまで話が発展し、いざこれからというまさにその瞬間に、番外編が始まってそれで終了、という、腰くだけぶりなんですが、打ち切りなのかな。でも、アスタロトが美少年売春宿のオーナーに収まる番外編がまた面白かったです。パタリロでもよくいきなり魔界に話が移ったり日本に行ったりしましたが、そんな雰囲気です。これ、主人公がパタリロでも立派に成り立ちそうなんだけど、そこがまた味なんですよね。「パタリロ!」好きなひとはもちろん、魔夜峰央は「パタリロ!」だけのひとだと思ってるひとや、「パタリロ!」って名前だけは知ってるけど、長すぎて…というひとへのミーちゃんワールドへの入門編としてもおすすめな作品です。

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