「9.11-アメリカに報復する資格はない!」ノーム・チョムスキー(文春文庫)



 ずいぶん前に新聞でこのひとの論が紹介されてるのを読んだときから、ちゃんと読んでみたいひとだなと思ってて購入したんですが、過激なタイトル(つーか副題)で損をしているような…。この副題のイメージで、なんか上段から構えて物を云うような挑発的な論だったらイヤだなーとしばらく読まずにいたわけです。あるでしょそういうの。しかし昨今の社会情勢を見るにつれ、まあ読んでみようかしらんと読み始めたところ、これがとても分かりやすくなおかつ理性的な書物だったので、興味深く読み込めました。
 9月11日のテロとそれにまつわるアメリカの軍事行動を中心に、なぜそのテロが起こったのか、どう対処していけばいいのか、という命題についての一冊です。ひとつひとつの質問に著者が答えるかたちで構成されているので、読みやすいかと思います。
 チョムスキーの論点はすっきりしています。9月11日に行われたテロについては、まず世界にとってそれが新しいものであることを指摘し、しかしそれは規模や性質が新しいのではなく、たまたまその対象が新しいのだといいます。そしてそのテロに対する対処の方法としてきわめて実際的な方法を挙げます。実行犯探しをし、犯人を捕らえ裁判を行い、判決を受けさせること。そして犯罪の背後にある不満を理解し、それに対処することに努力すること、です。
 勿論、対処は爆撃ではありません。なぜなら、かつてオクラホマ・シティで連邦ビルが爆破されたとき、犯人は国内の極右武闘集団が関係していることが分かったけれど、テキサスやアイダホを爆撃しろという声は上がらなかったからからだ、と。
 ほとんどすべての犯罪には理由があり、その理由のなかには対処すべき重要な問題があるのだ、とチョムスキーはきわめて理性的に指摘します。しかし今回のようなテロの場合、なぜそれがかなわなかったのか。チョムスキーはそれらの当然の疑問についても、資料にもとづいた分析を持って、丁寧に答えてきます。読み進むにつれ、なるほどこういう意味で「アメリカはテロ国家の親玉」なのかと分かりました。これまでにも様々なところで見聞きしてきたはずなのですが、こんなにすっきりと納得できたのは初めてかも。それというのも、チョムスキーの語り口調に感情的なものや扇情的なもの(あるいは、政治的な偏り)が感じられないからなのですね(例に挙げられるテロの事実は、まったく陰鬱な気分にさせられるものですが)。あるとしたら、きわめてまっとうなシンプルな倫理観。たとえば、かれにとり、ベトナム戦争が間違っているのは「いかなる場合も他国に侵攻するのは間違いだ」から、というものです。真理だ。
 そして、わたしが読みながらずっと考えていたのは「どうしてこんなことが出来るんだろう」「なぜこの国はこんなことをしなくちゃいけないんだろう」「どうしてこうなんだろう」というものでした。いまだにそれは分からない。
 9.11以降の政治情勢や、テロというものについて疑問を抱いたり考え込んだりしたことがあるひと、なしくずしのままに自衛隊はイラク行っちゃったし、そんなの良くない気もするんだけど政治ってなんかわかんないし、と思ってる人(わたしか)、などにおすすめです。きわめてシンプルな論法と、そこから導き出される結論は、わたしにはきわめてまっとうなものに思えるのですが、いかがでしょうか。

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