「オーケンのめくるめく脱力旅の世界」大槻ケンヂ(新潮文庫)



  大槻ケンヂが外国ロックミュージシャンを求めてひなびた温泉に行ったり、女の子とお別れするため熱海でスイカ割りしたり、特撮のツアーで博多に行ったり…という感じのエッセイ集。どこかに出かけるためのガイドにはまったくといっていいほど役には立たないけれど(有り得ない)、わざわざ行く必要もないくらいに、そのときのオーケンの気持ちは良く伝わってくる、そんな本です。あ、でも中国拳法そろいぶみは実際に見てみたいかもな。だってリアルの酔拳や蟷螂拳や蛇拳ですよ。障害者プロレスに関しては、オーケンの興奮はよく分かったけれど、わたしには向いてなさそうだということも同時に分かった。それはもう、好みだから。
 しかし、オーケンは恋愛話でほろりとさせるのが巧いねえ(嫌味な書きかたして申し訳ないが)。このひとの書く恋愛話の女の子たちは、なんだかみんな同じ顔をして同じようなことを云うなあと思ったんだけど、それが要するにオーケンの好みなんだろうな。スイカちゃんは、あまりにも出来すぎているけれど、こういう子もいるのであろう。きっと。
 どの箇所も平均以上に読ませるけれど、個人的にとくに面白かったのは「酔拳を見に栃木に行こう」「音楽雑誌が書かないロックバンドの日々」「心療内科に行って禁UFOを解いてもらおう」「モデル撮影会に潜入!?」かな。
 なかでも「音楽雑誌が?」は現在のかれのユニットである特撮誕生のいきさつを書いていて、特撮ファンのわたしに面白かった。あと、ロックバンドの営業って大変だよね、という気持ちがひしひしと伝わってきて…なんていうか、この歳になると、自分の好きだったひとが「あー昔だったら絶対こんなことしないだろーにな」的なことするのも目に入る。それは、本人もせつないかもしれないが、こっちもアレなんだ。生活とか分かってるけど、アレなんだよう。どんなかたちであれ、本人にとってはその名前で表現ができるだけいいのかもしれないけど。リアルノゾミのなくならない世界。そんなことを思い、意味なくせつなくなりました。

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