「座頭市」(北野武監督)

 

 基本的に映画はあまり見ないわたしですが、北野監督に関しては、たけちゃんファンという以外の理由で選んで見ることが多いです。抜き出される映像の美しさと瞬間に氷結したような表現がたまらなくスタイリッシュ。このひとの映画はストーリーとかそういうのより、映像勝負じゃないかなと思うのです。かといって、映像だけが並べられたら飽きる予感がするので「DOLLS」は未だ未見であります。
 今回のこの映画は、北野映画にしては珍しく日本でも観客を動員したとの評判があったり、ベネチアで賞を取ったりとの評価があったんですが、後者はともかく、前者は当然じゃないかなあ。これ、ちゃんと映画料金を払っただけの価値はある映画ですよ。 そんな風にまず思ってしまったのは、スカパーと契約してから知った、とてもじゃないけど金払って見る気にはなれないたくさんの日本映画の存在を知ったから、ですが。そうやって必要以上にしんきくさかったり無駄に辛い現実を思い知らされる映像を見なきゃいけないのなら、はかない運命とか人間存在の哲学的な限界とか生きる意味とかに興味がない薄っぺらな人間で結構でございます、わたしはただのオンナコドモでございます、とつぶやきたくなる日本映画専門チャンネルを見てしまった午後。
 で、「座頭市」ですけど、最初にそう思ってしまったもので、ところどころの物語としての不器用さとか不整合性は、甘く見ちゃったなあ。物語としては、TVの時代劇並みの単純さとデリカシーの無さ(残酷描写じゃなくて『悪い奴はみんないなくなっちゃったね』とか、キャラにそのまま云わせちゃ駄目だろ、とか、明らかに浮いてた新吉の剣の稽古のギャグとか←しかしこれは好きだ…)だと思うけど、あの映像と市のキャラクターで相殺された…というか、そのアンバランスさ自体も、この映画のよさになるのかなと思ったり。おうめ(大楠道代だったのですね。『ツィゴイネルワイゼン』は大好きだった)の背負ってる野菜がリアルにしなびているのと、不自然に美しい桜の舞い散りかたが同居してる奇妙さ。わたしは好きなんだけど、それが駄目だというひともいるかなあ。
 そこらへんの不具合さがもっとも露呈してるのは、ラストのタップだと思うので、これがOKかどうかって意見が別れるかなと思うんですけど、わたしはOKだな。だって、あれ怒ったら大人気ないでしょ(笑)
 で、重ねて云えば、わたしはこのいびつ感が嫌いになれないのですね。たけちゃんの好きなものを並べて構成した、まさに北野ワールドだから。それも傾向としてバラバラなものを並べてるので、不整合さが目立つんだけど、それもたけちゃんかなあ…とこれはもうただのファン贔屓かという気がしてきた(笑)。あと、本当にたけちゃんはホモネタが好きですね…。
 とにかく、見てるあいだは退屈しないし、後味も決して悪くないのは保証します。上質のエンタテイメントであると思います。見てないひとには、おすすめです。

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