「英米短編ミステリー名人選集4 頭痛と悪夢」ローレンス・ブロック(光文社文庫)


 アルコール依存症の探偵マット・スカダーなどが有名な作者のミステリ短編集です。このひとは長編も良いが短編も好き。これは選集ということで、ハヤカワ文庫で出ている短編集などに収録済みの作品もあり、半分ほどは既読でした。
 スカダーをはじめとして、泥棒バーニー、殺し屋ケラーといったブロックのファンにはおなじみの面々が登場します。わたしはスカダーが一番好きだけど、どんな依頼人であっても、様々な手段を用いて無罪にしてしまう悪魔のような弁護士エイレングラフもいいと思います。金銭ではなく、かれなりの美学で動いているのがニクい。嫌な話でも、不愉快にはならない。 また、それらレギュラーメンバー以外の短編も、ブロックお得意のなんともやりきれない気持ちになる(しかし読み続けずにはいられない)人間の心の機微を描いたものばかりです。孤独な生活を送る霊能力者が、頭痛に悩まされ始めたときに彼女が見たものは…という表題作「頭痛と悪夢」は、ラストが実に辛い一作でした。
 こういう誰が悪いわけでもないはずなのに、様々な人の思惑により起こってしまう暗鬱な悲劇といえばパトリシア・ハイスミスの作品とかもそうだと思うんですが(わたしはそれがキツくて元気なときにしか読めなくなった…)、ブロックの作品には、そういう話であっても、かすかにそこに差し込む光があるような気がします。それこそ、光ってどこ?な作品であっても、登場人物の誰かや、わずかな文章にそれが浮き上がってるような。単純に、嫌な気持ちだけでは終わらない。そして、甘すぎるわけでもない。だからわたしはブロックが好きなのです。

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