「セクシーキャット」

「はいどーもこんにちは」
「こんにちはー」
「漫才コンビ、ノコッタヨコッタでーす」
「なんや世間は景気回復に向かってるらしいですな」
「そうそう。俺らには実感ないけどね」
「会社勤めしてる友達が、ボーナス楽しみやて」
「ボーナスかあ。ええなあ。もろうたことあらへん」
「ああいうあぶく銭ってなんに使うんかな」
「あぶく銭いうな」
「給料以外に貰う金なんぞあぶくじゃっ、あぶくのように消えてまえ!」
「なんでキレんねん」
「金持ちってええよな」
「それかい」
「せやけど、あぶくのように使うゆうたらなにがええかな」
「あー。風俗とか呑みとか」
「はいはい。好きな奴は行くよな。実は俺もこないだ、連れに誘われて、キャバクラ初体験」
「マジで。おまえそんなんアホらしいゆうて一回も行ったことなかったやん」
「おう。でもそんときはおごってくれるってゆうから」
「へー。どんなとこ行ったの」
「それが、まあ聞けや。俺のキャバクラ初体験。いやあ聞くのと実際行くのとは大違いやね」
「そうなんや」
「俺が行ったのはな、なんかキャバクラっていうよりもちょっと金がかかるとこらしくってな。ドアからして立派で重厚な感じでな、そこに金文字で店の名前入ってんねん」
「なになに」
「セクシーキャット」
「うっひょー。おまえそれ風俗ちゃうん」
「ちゃうねん。俺も実はどきどきしたけど、店入ったらすぐボーイが来て『女の子の嫌がることや破廉恥な振る舞いはお控えください』って注意されたし」
「その注意されるとこがまたどきどきやね。男やったら注意されたいね」
「そうそう。でボーイさんが『あ、こちら初めてのかた。ラッキーですねえ。今日はここだけの話、女の子全員ちょっとムラムラデーですよ』…にやって笑うねん」
「ムラムラデーってなんやー!もうずるいわあ、ヨコッタん、俺らトモダチやったんちゃうん」
「まあまあ。そいでな、薄暗い店内に案内されて、ソファに座るやん。こうムーディな音楽流れてるんやけど、耳すましたら、ちょっとあえぎ声みたいな可愛い声聞こえるねん」
「マジでー」
「俺も心臓どきどきやん。そしたら『お客さま、当店ナンバー1のマリアちゃんがただいま参ります』マリアちゃんて」
「俺もうその名前だけで指名するね!」
「で、『マリアちゃん、参りました』ってボーイさんが云ったとたんに、がーって俺にむさぼりついてくるねん、マリアちゃん。その激しい息遣いとやわらかい感触に、俺ももうこれはたまらんと思った瞬間に、気づいたね」
「やっぱ風俗やん!」
「いや、これは血統書付きのシャム猫やと」
「待たんかい」
「さすが店名「セクシーキャット」。ナンバーワンのマリアちゃんはその名に恥じない美形猫でな」
「おまえここまでひっぱってそれはないやろ!」
「なにが。マリアちゃんだけやないで。そのあとに来たるみかちゃんはふわふわのペルシャでな。でもちょっとこの子はイマイチ。俺のグラスから水ばっかぺちゃぺちゃ呑みよんねん」
「そんなん嫌や…」
「舌遣いは巧みやったよ」
「知るか!」
「新しい子を呼びたいときは、テーブルの上のカルカンをこうキコキコと。そしたら呼んでない子までまっしぐら。カツブシとジャーキーでいつまでもその席におってくれる」
「百歩譲ってお前の話を信じたとして、それ、嬉しいか?」
「正直、ちょっとキツい」
「やろ?」
「カツブシの盛り合わせで一万円やねん」
「ぼったくりや!」
「また女の子たちはあっちゅーまにそれ食べつくすし。そしたら今度は煮干や」
「せやから、それ、楽しいか?」
「女の子は全裸やで」
「猫の分際で服着とったら俺が脱がすわ!」
「ノコッタんはワイルドやなあ。そんなこと云ったらあの店にはつれていけへん」
「連れていくな!で、女の子全員ムラムラデーってなんや。発情期か」
「ご名答。おかげでボディサービス濃かった濃かった。服にびっしり毛がついたわ」
「嬉しゅないなあ…」
「そんなんばっか云うなや。じゃあ、今度別の店一緒に行こう。『ラブリースネーク』って姉妹店があってな」
「行かんわ!」

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