「幸運の25セント硬貨」「第四解剖室」スティーブン・キング(新潮文庫)



 ホラーの帝王スティーブン・キング。わたしも昔からファンです。最近も大作「スタンド」が文庫化されていたりと、どれにしようかなと思ったのですが、なんせやたらめったら筆力のあるひとなので、読むほうも体力が必要です。なんせ読者を途中で休ませずに力技でぐいぐいとひっぱっていくのが持ち味なので、こっちも手をつけるのに覚悟がいる。でも、いったんその手に乗ると(少なくとも読んでいるうちは)「山荘の悪意」や「霧に潜む化物」や「浮き台の周りを周回するなにか」や「老人の言葉によって狂気に陥るアメリカンボーイ」を信じずにはいられなくなる。それが快感。しかし、最近はご無沙汰でした。ところが書店で見かけたこれは一冊の短編集を分冊したもの。おお、キングの短編大好きです。
 なので購入したのですが、久々のキングは、さすがに、面白かった!まず、ありえないシチュエーションや存在を用意しておいて、これから先どうなるの?と思わずにいられない展開にする。そしてさらにそれを独特のくどくどとした文体でこってりと語る。濃いですよ。なので、キングが久しぶりのわたしにはリハビリとしてもちょうどだったのかも。もちろん、キングは長編!というひとが多いのは百も承知だし、わたしも好きです。でもフェイバリットが「ニードフルシングス」というのは少数派かな(笑)。
 この短編集、好き嫌いはあれど、ほとんどの作品が水準以上だと思うのですが、個人的なおすすめリストなど。
  「幸運の25セント硬貨」からは、下水管の格子に小銭を落とし、札をシュレッダーにかける青年の奇妙な生活とその正体が次第に語られていく「なにもかもが究極的」、繰り返し繰り返し巻き戻っては再生する感覚と終わりの無い終末感が、まさに作品後に添えられたコメントでキングが述べたとおりのものである「例のあの感覚、フランス語でしか言えないあの感覚」(これはコメントを読む前に本編を読むこと!)、古典的な幽霊物ぽいけれど、まさに邪悪という言葉で表現するのがふさわしい存在についての物語「一四○八号室」が良かったです。
  「第四解剖室」からは、全身麻痺の状態になりながら、生きたままの解剖の運命からなんとか逃れようとする男の悪戦苦闘がブラックユーモアな「第四解剖室」、トイレの落書きを収集するのが趣味な男がたどりついたモーテルで選んだ運命と、その実行の前に立ちはだかった問題、そのじたばた加減が面白うてやがて哀し風味な「愛するものはぜんぶさらいとられる」がいいかな。
 あと、この短編集でよかったのは、キング本人によるコメントと序文があること。わたしはキングのエッセイが好きです。「死の舞踏」は間違いなく一番回数多く読み返したキング作品です。とかいってたら、改訳が出てるよ…高いなあ、どうしようかなあ。
 

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