「<映画の見方>がわかる本」町山智浩(洋泉社)



 元々はムック形式で出ていた頃の映画秘宝が好きで、名前を覚えた著者の本です。更新も頻繁な日記も面白く読んでいたのですが、最近の「華氏911」に関する文章に感銘を覚えたので、ちょっとまとめて読んでみようかなと購入しました。
 「2001年宇宙の旅」「俺たちに明日はない」「卒業」「ダーティ・ハリー」「「猿の惑星」「時計じかけのオレンジ」「地獄の黙示録」「タクシードライバー」「ロッキー」他の有名作についての本です。その映画が作られた時代的背景やその内容や表現が意味するもの、巻き起こした影響などについて分かりやすく解題してくれていて、とても面白く読めました。なんせ映画がそんなに得意ではないわたしでも見たことがあるような作品ばかりなので、それにまつわるエピソードや謎解きは実に面白い。昔、映画秘宝などで読んでいた文章に比べて、悪ふざけ度が少ないのは、むしろ好感が持てます。なぜこういう本を書いたのかを説明する「はじめに」の丁寧な口調が、当たり前の話ですが、自分がなにを読もうとしているのかを親切に分からせてくれるのです。そしてその結果、なんとなく分かっているつもりだった名作を、また違った視点で見直すことが出来るような気になりました。
 一本一本の映画の成り立ちとその魅力を、より具体的に、実際のエピソードや社会背景の説明を交えてテクニカルに語るその姿勢は、曖昧な「感想」や「印象」でなく、映画をより面白く感じさせてくれるものです。教えてもらった、という感じ。それは、通り一遍のパンフレットしか持たずに有名テーマパークに入ったあと「面白かったけど、なんだかもっと面白いものを見落としたような気がする」「設計者のおすすめが分かればそこに一番に並んだのに」と思う気持ちに対して、差し出されたテーマパークマニアの虎の巻にも似ています。
 個人的にちゃんと見直したくなったのは、いくらでも解釈が溢れている「地獄の黙示録」(これ、ミリアスの最初の脚本通りだったら、本当に名作になったような気がします)や「2001年宇宙の旅」などよりも、「ロッキー」なんですけどね。金なしセットなしリテイクなし、メイクまで俳優が自分で行い、エキストラはチキンで釣ったホームレス、というような厳しい状態で作られた舞台裏を知り、いままで何度も見たはずの、階段を昇るロッキーの背中をもう一度見たくなりました。

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