「悪夢交渉人」高橋葉介(朝日ソノラマ)


 久しぶりの高橋葉介短編集。お金をもらって悪夢を引き取る悪夢交渉人の夢継くんを主人公にした4篇他、おなじみの怪奇でコミカルでグロテスクなユーモアが楽しめる、安定した味の短編集です。ちょっとまた絵柄が変わってきたかな?筆で描いてる(はずの)主線が太くなっている。夢継くんは遊戯王かと思いました。
 同時収録の「家庭訪問」では「学校怪談」の山岸くんが登場するし、「露店」での旧友を訪ねたところで語られる奇妙な話という展開、「リ・プレイ」で、旧家に奉公する女の子、これらはそれぞれ同じようなシチュエーションが過去作品にありました。この微妙な繰り返しと多用されるモチーフが嫌味や手抜きになっていないどころか、安心して読める持ち味のようなものになっているのがさすがと思います。好き好き。リリカルな恋物語「印度の魔術」も、このひとならではのいい話。
 わたしの一番のお気に入りは巻末の「リセット」なる短編です。これは連作になることを前提として作られたお話ではないかなあ、と思っていたところ、公式FCのサイトによると、あの「KUROKO」の続編らしいです。嘘。いやまあそうかもしれないけど、こっちのがずっと面白いな。高エネルギーの生命体に情報を分解して取り込まれたあと、コピーされた地球を舞台に働く公務員の修正者くんを主人公にしたこの作品、世界の実存がないがしろにされている舞台装置が、とてもわたし好みでなりません。「妄想体」とか「覚醒者」とか、アナクロちっくな言葉遣いも懐かしいSFのよう。もっと読みたいが、ややこしいといえばややこしいので、続きは駄目だったのかしら。眼鏡を外した修正者くんは、怪奇篇の夢幻魔実也氏を思わせて美しくも残酷な笑顔。きゃ。どこかで続きが読みたいです。

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