「鍵」

「はいどーもこんにちは」
「こんにちはー」
「漫才コンビ、ノコッタヨコッタでーす」
「いやあもう、えらい目に合うたわ」
「どないしてん」
「家のカギ無くした」
「マジ?おまえなんかでっかいキーホルダーにつけてたやん。あれがまるごと?」
「おう。いっつも入れてるジーンズのポケットに無いから、あと探すのはおまえのポケットの中くらいや」
「なんでやねん」
「俺のハートの扉を開けるカギを探してやね」
「もってたとしても放り捨てるな」
「いや、マジでめっちゃ困って。しゃあないからさっき、おとんにカギ借りて家の合鍵作ってきた」
「あー。そういやカギ屋あったなあ」
「もうな。ちょいびっくりしてん俺」
「なにがいな」
「カギ屋行くやん。すいませーん、合鍵作ってくれますか、いうたら、はい少々お待ち下さい云われて。うわー参ったなあ、これからの予定滅茶苦茶やんと思ったら、お時間5分ほど頂きますて。5分て」
「そんなもんやろ」
「マジで?もう俺驚いて。だって、鉄ってそんなに早よ固まると知らんやん」
「いやちょい待て」
「あの狭い店内のどこにかまどがあるんかな。かつーんかつーんって打って、水ばしゃーかけたら、しゅーって煙あがるとこ」
「おまえはいろんな間違えかたしてるなあ」
「とろとろと型に流して作るんちゃうの」
「お前、そんなそこらのカギ屋がそんな作り方してるわけないやん!削ってんねん、お前のカギのかたちに!」
「嘘お」
「当たりまえじゃ、そんなんガー削ってシュッと吹いたらしまいやがな」
「おいおい、ノコッタくんよ」
「なんや。眼鏡押さえながらこっち向くなっちゅーねん」
「お前な、俺はカギの話してんねん。それもな、お前のチャリのカギレベルやないんやで。俺のマイホーム。俺のねぐら。俺の魂の故里。うさぎ追いしかの山」
「歌うな」
「そんな重要な場所のカギがやな。なんやそれ、ガー削ってシュって。俺がお前のチャリのカギ、蹴飛ばして外したときでも、もちっと手間かけたわ」
「お前やったんか!」
「こぶな釣りしかの川」
「誤魔化すな!」
「せやて、ノコッタが嘘つくねんもん」
「嘘ちゃうがな。あんなん型チェックして、その通りにさくっと削ったらしまいやがな」
「…お前な、自分がなに云うてるか分かってるか?」
「あん?」
「お前、この世界にいったい幾つのカギが存在すると思うてんねん。お前の云うとおりやったら、この世にカギのパターンは5種類しか存在せえへんことになるやないか」
「なんで5種類やねん!」
「指の数は5本やから」
「だれか来てー。ここにキチガイがー」
「だって!人間があらかじめ用意できるカギのカタチなんて、せいぜい5種類やて。あんな狭い店内に…ははーん分かったぞ」
「なにが分かってん」
「それがヒトゲノム解析の結果なんやな」
「お前は本当に聞きかじりの知識だけでもの云う癖なんとかせんといかんな」
「だってな。分からんもん。カギってひとつの鍵穴にだけ合うもんちゃうの?そんなんが簡単に型見てガーッのシュで出来るもんなの?俺はちゃうと思うなあ」
「そんなん云うんやったらカギ屋の兄ちゃんに聞いてきたらええがな」
「そんな企業秘密漏らすわけないやん。絶対あれは溶鉱炉使ってる。で、お前みたいなのが来たらわざとらしくガーッのシュっとかいいよんねん。けっ、騙されよって」
「あのな、ひとつええか」
「なんや」
「百歩譲ってお前の云うとおり、カギ屋はカギを溶鉱炉で作ってるとするわ」
「おう」
「なんでそれがそもそも5分で出来るねん?」
「…指の数は5本やから」
「おまえそのわけのわからん溶鉱炉で出来た合鍵見せてみい!俺が削った痕見つけたるわ!」
「おう、これや」
「…て、なんでおまえはさっき無くしたいうたキーホルダーをポケットから出してくんねん!」
「ああ。さっき探したんはジーンズの右ポケットやったんやな。左に入ってたんや」
「…ヨコッタン」
「なんや」
「俺、もう溶鉱炉でええわ。そんな気がしてきた」
「わすれがたきふる里」
「歌はいらん」

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