「Jの総て」中村明日美子(太田出版・F×コミックス)



 明日美子さま。と思わず太文字で拝みたくなるマンガです。すごいですよ面白いですよ。竹宮恵子が表紙描いてた頃のJUNE読者なら必見の、JUNEモノです。そーなの、ボーイズラブじゃないの、JUNEなの。
 明日美子さまは、エロティクス・Fでのデビューからのファンですが、その繊細で個性ある絵柄と巧みなストーリング、耽美な描線でも鼻水流して涙するなんとも愛らしいキャラクターたちがたまらん魅力です。60年代のアメリカを舞台に、モンローに憧れる巻き毛の美少年「J」が主人公。孤独で凄惨な(そしてきっとある意味ありふれた)生い立ちを抱えたかれを取り巻く寄宿舎の人々…という、2000年代の「風と木の歌」なのかなあ?わたしは「風木」を通ってないのでなんともですが。もっとも、「トーマの心臓」とか「小鳥の巣」とか、あの系統の作品へのオマージュも感じます。
 しかしジルベールと違い、とても正統派なおカマ(差別的な意味合いでなく)である主役のJが、生き生きと迷い、動き、歌を歌い、他人に惹かれて、裏切られつつも生きていくその姿に、読み手のこちらもはらはらします。うん、ドラマとして面白い。続きが気になってしまう。二昔前なら、JUNEとしてありふれていたかもしれないストーリーではありますが、そこがやっぱり違うわけですよ。Jに惹かれつつも、複雑な己の出自のことも踏まえて、不器用にならざるをえないポールと、そんなかれにいらだちつつ絡んでしまうモーガンの関係が、わたしにとってはとてもツボでした。キスすらしない(殴るけどな)この関係性が濃くて、どきどきします。
 久しぶりに良いJUNEを読みました。お好きな方はぜひともご一読を。

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