「きみの血を」シオドア・スタージョン(ハヤカワ文庫)



 キングのホラー評論本「死の舞踏」で名前が挙げられていた一冊。様々な意味で、とても巧みな物語でした。まず、このタイトルは吸血鬼モノだと思うよね?確かに吸血鬼モノといえなくはない。でも、そういう超自然的なファンタジーを期待していると、読み始めてしばらくは首をかしげてしまううけあい。どちらかといえばサイコサスペンスかな。ただ、これは単純なジャンル小説ではありませんよ。
 やりとりされる書簡、自叙伝や記録が組み合わされて物語が語られるうちに、さりげなく滑り込まされた伏線が重なり、それによってゆっくりと浮かび上がってくる事実という構成の流れは、途中で読むのを止めることはできない面白さです。一読したあと、もう一度読み直して、いろんなことに気づき膝を叩くような巧さがある。
 そして明かされた真実は…生理的に受けつけないひとも多そうだし、なによりこの作品が60年代のアメリカで出版されたこともまた信じがたい。残虐な描写とか非人間的な話とかととは違ったラインで、人間心理の嫌な部分を刺激する話だと思います。しかし、それだけ嫌なもの(そう、恐怖よりも嫌悪感を感じる)を体現しているこの物語の主人公自体には、とても無垢なものを感じてしまう、これはまさにそういう人間だからこそ起きた事態なのだから。途中に挟まる様々な心理分析は、的を外してはいないものの、そういうもの抜きでも十分になりたつ話であります。
 物語最後で明かされる、主人公が窮地に追い込まれることになったきっかけの手紙。その文章が意味するおぞましさと純粋さに痺れました。それが現しているのは単純な事実であったということに。そして、この物語の内容すべてを要約し、体現したタイトルの巧さに改めて唸りました。面白いなあ。この作品のネタバレをする人間に呪いあれ。久々にそう思った一冊です。
 スタージョンはちゃんと読んだことがない作家なのですが、これもまた他の作品を読んでみたいと思います。とりあえず「夢見る宝石」と「人間以上」かしら。

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