「失踪日記」吾妻ひでお(イースト・プレス)



 伝説のマンガ家、吾妻ひでお氏の久しぶりの単行本。
 それも突然の失踪から路上生活、素性を隠しての肉体労働、アルコール依存と入院生活までを語ったノンフィクションマンガとあれば、購入するほかないわけです。と思ったら、近所の大型書店では「そもそも入荷すらしていません」といわれてしまい、ネットで購入。ちょっと信じられなかった…。
 わたしはこのひとの幻想と美少女系の作品が好きなのですが(それこそ「夜の魚」とか「海から来た機械」とか「陽射し」とか)、今回の本はもちろんそういう内容ではありません。路上生活の描写など、書くひとによっては悲惨だったり嫌悪感を感じさせるようなものがあるかもしれないのに、淡々としたその語りぐちと、均一で清潔感のある可愛らしい絵が、そういったものを感じさせません。かといって、自己憐憫や甘えもない。ユーモラスであるけれど、同時にその生活の厳しさや怖さも透けてみえるような、あるのはただ「そういう生活」。それがとても面白かった。そういう風にひとつの体験を、自分のフィルターを通して語ることができること、それが作家なのだなと思います。
 個人的には、あと卯月妙子さんが「実録閉鎖病棟」を書き下ろし単行本で出してくれたら、またそういうものが読めるかと思うのですが…頑張ってほしいな。

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