「ミニ・ミステリ100」アイザック・アシモフ編(ハヤカワ文庫)



 元は上・中・下の三分冊で発行されていたミステリショートショート集の合本・新装版です。「幻想と怪奇」といい、ハヤカワは最近こういうことが好きですね。おかげで元版を持っていたにも関わらず買いなおしちゃったじゃないですか。というわけで、十数年ぶりに再読しましたが、どうやらわたしは上・中・下のうち、上・下のみを所有していたらしく、ちょうど真ん中へんの話にさっぱり覚えがありません。だから買ってよかったんだよ…(自分を慰めてみた)。
 手軽に読める短さ勝負のミステリばかりが百編、ということで、前提となる設定がどれもこれも似たようなものになってしまうのは仕方ないところ。とりあえず、アメリカの夫という夫が妻を殺したいと思ってることがよく分かった(笑)。しかしそれでも100編のうち「なんのことやらさっぱり」的な標準以下の作品は数えるほどでした。外国物で、この打率の高さはたいしたもんだと思います。(わたし、短編はやはり日本物が好き)。
 100篇のうちから、わたしのおすすめを10選んでみました。
「最後の微笑み」(ヘンリイ・スレッサー)死刑囚が得た思わぬ救いの手が意図したものは…。
「そして、今」(エレイン・スレーター)男女の違いというか夫婦のすれ違いのままにたどりついた最後の情景の恐ろしさとブラックユーモアの共存が見事。
「悪いニュースばかり」(ヘンリイ・スレッサー)さすがスレッサーということでもう一篇。「そして、今」と似たようなテーマながら料理の仕方が違うとこうも違うのですね。
「果てしなき探索」(トマシーナ・ウィーバ)、ロマンチックな悲劇と復讐の物語と思わせておいて、圧倒的な救われなさがそこにあることが、最後に至って読者に知らされます。せつないです。
「押し入れの魔女」(アン・チェンバリン)
 押し入れには魔女がいる、と云う新妻の訴えを最初は本気にしなかった夫だったが…。女性の感性のもつ禍々しさと、それを絶対に受け入れられなかった夫の恐怖が伝わる、本当に怖い作品。
「医者の指示」(ジョン・F・スーター)
 流産した女性の独白に、医者と夫の会話が挟みこまれる形式で語られる作品。その形式が、夫の優しい言葉に持たせる意味を素晴らしく効果的なものにしています。背筋が寒くなった。
「あなた、殺されるわよ」(リチャード・デミング)
 美しい同僚に恋をした男がゆっくりと陥っていく狂気が、静かな筆致で語られています。
「とらわれびと」(エドワード・ウェレン)
 ひき逃げ事件を目撃した男。しかしかれはそれをどうしても直接訴えることはできない立場にあった…。アイデア勝負といわれればそれまでですが、しかしこのアイデアは思いついたひとの勝ち。
「ひとり過ごす夜」(エルシン・アン・グラファム)
 この100篇のラストをしめくくるにふさわしい「おやすみなさい」な一篇。短いけれど鮮やかな最後のあと、怖さがふわりと広がっていくような印象がある作品です。
 どれも飽きない面白さではありますが、一気に読むとちょっと疲れます。料理の薬味ばかりを続けて食べたような感じ。寝る前に3編ずつ、とかそういう読み方がおすすめな一冊です。

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