雁須磨子「連続恋愛劇場」(松文館)



 この作者独特のテンポと間で心地よくゆるぅく語られる短編集です。
 連作もあれば独立した短編もあり、アブノーマルぽいのもあれば青春物もせつない系もあって、そこらへんのくくりのゆるさも実にらしい。もっともどこを取っても雁須磨子なので、形式にこだわる必要はないのです。正直云って、絵がすごく巧いわけでもないし(この表紙の着色は、プロとしてアリなのか…)、展開も分かりにくい部分がある。けれど、このテンポのゆるさが、慣れると癖になります。
 男に誘われると断れない可愛い少女のたゆたう気持ちが、物語の最後で実に居心地の悪い不安として表面化する「さいはて」、露出魔の男とかれに女王様として選ばれた女子高校生との、純度が高まって結露として溢れるような濃密な空気を描いた「みずうみ」などが良かった。
 ですが、34歳のバイト先の元店長と17歳の女子高校生の恋愛模様を綴った連作がとくに面白かった。これはぜひ続きを読みたいです。年齢差のある二人の微妙な分かりあえなさと通じなさと、それを越えて臆病に手を伸ばしあう感じが、とてもリアルで生々しい。こう書くと本当に少女マンガですが、なんか違うんだよな…。それは小仏店長(このネーミング…)の見事なイケてなさと、美鈴ちゃんの若さゆえのまっすぐさの対比が、絶妙なバランスになって成立しているからかも。こんなカップルは、きっと日本中に何十組といる。でもマンガになってるのはこの二人だけ、みたいなリアリティがたまらないです。「お父さんにいったらつきあってくれるんですか」「だからほら通じてねえだろ話!全然!!」(言ってねえーの描き文字つき)には吹き出して笑った。うん、本当に通じてない(笑)。
 ぼんやりとゆるゆるした空気のなかで、ところどころ立ち止まるようなリアルがある、雁須磨子はこれだから面白いです。

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