「営業ものがたり」西原理恵子(小学館)



 西原理恵子の新刊です。「上京」「おんなのこ」というものがたりシリーズの最終巻、みたいですけど、内容はこれまでのもののようなストーリー一本ではなく、いつものエッセイマンガのほか、西原版「PLUTO」の「うつくしいのはら」、「ぼくんち」番外編の「朝日のあたる家」などが収録されています。なので、すこしばかり散漫な印象は否めません。ごった煮ぽい(笑)。あと、帯の「浦沢さんとわたくし」の文句を本気にして何度もさがしちゃったよ、どっかに「心温まる交流を、みずみずしく描いた」マンガが完全収録されてないかって(笑)。
 手塚プロダクションと浦沢直樹と担当の許可をとって西原版「PLUTO」を描くネタは、正直、サイバラらしくもなく腰がひけちゃってるかなあという感じのお茶のにごしかたが続いたので、あれれと思ったのですが、結局たどり着いた先の作品、まったくそれらしくない「うつくしいのはら」が、なんつーか、こう、ため息の出るような出来だったので…。わたし、「PLUTO」をコミックス一巻からは、まともに読んでないのですが、それが悔しい。これから買ってこようかと思う。この内容は、たぶん、実際の「PLUTO」とはまったくカブらないんだと思うけど、この、とても辛く残酷なのに、美しい響きの言葉と素晴らしい絵で表現された作品を、もっと理解したいから。
 エッセイマンガでも「自分の最大のマーケットは二丁目と貧困」とうつろな目で語っておられますが、様々な意味での貧しさのループから抜け出せなかったり沈み込んでしまうひとびとを、どこまでも正直に描きながら、読後感が辛いだけでないのが西原理恵子のこの系統のマンガだと思います。辛い現実をそのままリアルに描くだけの描き手というのは、いくらでもいる。でも、それにただひたっているだけでない、客観性と距離の表現を心得ている。この柔らかな色彩と優しい絵が、それをなしえていると思います。
 泣く、というのじゃなく、じーんと感動するというのでもなく。ただ、ああ、そうだよなあ、生きていかなくちゃなあと思いました。
 うつくしいのはら あおいそらとそらまめ あいしてる

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