「黒い家」 貴志祐介(角川ホラー文庫)



 今更ながらの遅読です。映画化もされた有名角川ホラー文庫作ですが、ごめんなさい、正直なめてましたというのが、まず第一の感想。
 日本製のホラーというと、日常に揺らめくように現れる奇妙な話系しか知らず、舞台が現代日本の場合ではとてもじゃないけど、キングのような過剰なバイオレンスやサイコは、白々しくなっちゃうんじゃないかなー(菊池秀行や夢枕貘の一部作品を除いて)と思いこんでいたのに、こういう有り得る恐怖をしっかりと読まされるとは思いませんでした。これこそ作家の力量です。参りました。
 作品内で注目すべき点や褒めどころは北上次郎のツボを押さえた解説を参考にして頂くとして、わたし個人としては、これをサイコサスペンスにカテゴライズするひとは多いだろうけど、中身は立派なホラーだなということを思います。
 サイコサスペンスとホラーの違いといえば話が長くなるのであれですが、要するに実際に起きる可能性があるかないかということ。似たような事件こそありましたが、実際には、ここまでのことは起こらない。身も蓋も無い言い方をしてしまえば、これは壮大な嘘です。物語です。でも、もしかして…と、読後に後ろを振り向けなくなるような不気味さをたたえている、そういう意味でこれは立派なホラー小説だと思いました。

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