「カルトの子ー心を盗まれた家族」米本和広(文春文庫)



 オウム真理教、ものみの塔、統一教会、ヤマギシ会などのいわゆるカルト的なシステムをもった宗教団体に所属する人間を親に持ったこどもについての本です。オウムやヤマギシになると、生活の場所自体もまた団体のものであり、信者を親にもったかれらは、そのまま自分で選ぶこともなく、幼いときからその教義のなかで生きることになり、脱会したあともその後遺症をひきずります。なので、この本は、児童虐待についての本でもあるし、宗教についての本でもあります。子育てや家庭というものが、そもそも非常にカルト的なものであるのかもしれませんが(こどもは親を選べない、一番最初に触れるのは親の価値観であるから)、健全な家庭であれば、成長とともにこどもの変化が許されます。しかし、カルト宗教の場合はそれが許されない。そこで起きる軋轢と後遺症は痛ましい限り。
 ただ、そのような興味深いテーマを取り上げながらも、この本が惜しいのは、それが問題提起の段階で止まっているところ。ただ、斉藤環氏による解説でも、「あとは心ある専門家によって実証的な調査研究が少しでも前進すること」だと書かれているように、問題提起だけでも十分なのかもしれません。カルトや子育ての問題に興味があるひとにおすすめ。

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