「はいどーもこんにちは」
「こんにちはー」
「漫才コンビ、ノコッタヨコッタでーす」
「いやあ、寒なってきたねえ」
「冬本番やねえ」
「冬といえば、あったかいもん食いたくなりますな」
「ええなあ」
「また俺んちで鍋やるか」
「それはいらん」
「なんで」
「お前んちの鍋、ていうか、あれは鍋料理か」
「本格的な食材使った鍋料理やんか」
「あんなあ…ちょっとすいません、お客さん聞いてください。ぼく、こいつんちの鍋だけはもうこりごりです」
「人聞き悪いわあ。お前、俺んちで鍋食ったの一回だけやん」
「その一回で懲りたがな!あれ、いつやったか。まだ学生のときですわ」
「俺は自宅やったけど、お前は一人暮らしで金ない金ない云うてた頃や。せやから、いっちょ鍋でもおごるわて話になったんや」
「その話聞いたときは、マジで嬉しかってん。ああ、小林…ちゅうのはこいつの名前ですけど、小林にも人の心があったて」
「めっさ人聞き悪い。だっておれはあん頃週に5回はおまえのおかんの飯食ってたし」
「マジかい!」
「で、お前の部屋で布団ひいて寝てた」
「住んどんかい!…いやまあ、それはともかくとして、で、鍋ですわ」
「そうそう、鍋。俺、ノコッタん来るから、いうておとんに買い物頼んでん」
「その時点で俺も気づくべきやった」
「なに云うてんのん。おとん、めっさはりきって買ってきてくれてんで、うなぎ
「それや!おかしいやん!」
「なにが」
「あんなあ、今日は寒いなあ、鍋でも食おうか、ゆう話になって、わくわくしながら手土産に缶ビールもってお宅訪問したら、テーブルに水槽入ったうなぎて。絶対間違うてる」
「ハシでつかむの大変やったなあ」
「ありえへんがな!」
「いや、俺も思うてん。鍋やって云うたのに、おとんがうなぎのほかは申し訳ていどの野菜しか用意してないのがおかしいって」
「おかしいって…それはおかしいって…」
「おとんに聞いたら、ああ、ごめんおとうさんうっかりしてた」
「うっかりか」
「鍋いうから、しゃぶしゃぶでええわ思うて、うなぎにしたんやって」
「それがおかしいっちゅうねん!」
「俺もそれ聞いて、ああ、これハシでつまんでさっとお湯くぐらせてぽんずで食うんやなって」
「みなさんそんなやりかたでうなぎ食うたことありますか。一度やってください。僕みたいに吐きます」
「だいたい、ノコッタんがもたもたしてるから、鍋ん中で煮過ぎてしもうたんやて。しゃぶしゃぶやのに」
「お前、もう一度生きたうなぎハシでつまむか?」
「動くし滑るよなあ」
「なんで俺、あのときあれ食う気になったんか自分でも分からへん」
「二人で一匹が限度やったな。綱引きみたいに端からひっぱって」
「そういう時でも、顔のほうを俺に渡すのがお前やんなあ」
「キモいやん」
「それを俺に食わすなや!しかもなんや、俺が一口でゲー吐いて、おまえもなんか遠い目になったときに、おまえのおとんが現れて」
「そうそう。お前の手土産のビール呑みながら、うなぎをさばきだしたんよな」
「…さばくんやってんな。それからならまだしゃぶしゃぶて分かるよな」
「そいでもって身の部分だけささっと湯にくぐらせて、おとんだけで二匹食った」
「お前らワイルドやなあ。そのまま食べるって若さやなあ。とかぬかしてな」
「もうその頃には、おまえが涙目になってカップ麺でええわ、云うて二人でコンビニ行ったんや」
「めっさ寒かった。気持ちも身体も胃袋も」
「あんときは悪いことした。今度はちゃんとした鍋やろうや」
「ホンマか?」
「そう思うて、いまさっきおとんに電話入れたら、ちゃんと今度はどじょう買うとくって」
「いらんわ!」


ノコッタヨコッタは、冬のお祭りのために頑張る貴女を応援します。
 (うなぎ鍋、本当にあるみたいですが、やっぱり生きたままをハシでつまむものではないらしいです)

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