「細雪(上・中・下)」谷崎潤一郎(新潮文庫)



 時は昭和10年代、大阪船場に古いのれんを誇る蒔岡家の四人姉妹の生活と、当時の社会のありさまを饒舌な文章で描いた長編小説。
これだけだったら、絶対面白いわけがないと思うでしょう。四人姉妹の三女の雪子は、たおやかで艶やかな和風美人なのだけれども、無口で大人しい気質と良家の意地が邪魔をしてか、なかなか縁談に恵まれない。そんな彼女を心配して、色々と世話を焼く長女と次女の家庭や社交生活、自由奔放に男出入りを続け、いつも姉の縁談の邪魔をするような成り行きになる四女の恋模様などが物語の中心です。だから、それが面白いわけがないと思うでしょう(笑)。でもそれが、文庫本三冊をあっというまに読み終えるほど、面白かったんです。事件らしい事件は、雪子の見合いの話が出ては失敗したり、長女のいる東京に芝居見物に出かけたり、台風で水が出たり、四女が病に倒れたりといった範囲で、そこには時の流れとともに、だんだんきな臭くなってくる時勢の影響も見え隠れしてきますが、メインではありません。
 実にはんなりとした関西弁での会話や、当時の常識のなかでも自らの我をもちつつ生きていく人々の様子、風俗、そういったものが織りなす世界が、こんなに面白く、普通に読みこなせていけるとは思わなかった。いや、マジで騙されたと思って読んでください(笑)。

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