「燃える家」アン・ビーティ(ヴィレッジブックス)


 アメリカの純文学作家による短編集。
全部で15の短編が収録されていますが、どれも様々な状況下にある女性の日常を、一瞬切り取ったスケッチのようです。とりわけ劇的なことが起きることもなく、なにか落ちがあるわけでもない。淡々としたその筆致を追うだけだと、つまらなく感じるかもしれません。実はわたしもこれだけかなあと退屈しかけた(笑)。しかし、何編も続けて読んでいくうちに、なにかが残るのは確かかも。それは静かな諦めの空気です。
 この短編集に登場する女性たちの多くは、離婚や夫の不実や家族との不仲などの問題を抱えて、生きています。それは、当人にとっては辛いことであっても、周囲から見れば、ありふれた不幸で、彼女たちもその不幸を諦念のまなざしで眺めながら、ただ、友人たちと会話したり、散歩したりしているのです。だれも助けにはこない。静かな慰めらしきものが、ときたま訪れるだけ。現実とはそういうものかもしれず、そのやるせなさだけが、読後静かに残りました。

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする