「さんさん録 全二巻」こうの史代(双葉社)



 妻に先立たれた男が、息子夫婦と同居することになった。働き始めた嫁のかわりに、主夫として働き始めたかれのやもめ生活を支えたのは、亡き妻が残した生活ノート「奥田家の記録」だった。かれを取り巻く世界は、ときに賑やかで楽しく、少しさみしく、ほのかに温かい。
 という内容と表紙絵などからは、硬い内容か或いはほのぼの人情モノと誤解されるかもしれません。
 が、それがどうしてどうして。こうの史代独特の、トーンを使わない画と、柔らかな描線は、実に目に心地よく生きた線であり、その絵を見ているだけでも、にこやかな気持ちになれます。描かれるキャラクターも、設定だけならごく平凡なものと思わされそうなのに、語る言葉やユニークな行動が、実に生き生きと描かれていて、好感を持たずにはいられません。悪人の存在しない世界です。優しいけれど、単なるぬるま湯でもなく、とてもお茶目でユニークな視点を持って描かれていて。よくある人情モノとは一線を画した作品だと思いました。

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