「神の子どもたちはみな踊る」村上春樹(新潮文庫)



 村上春樹絶賛読み直し週間開催中。これも発行当時に購入してそのままになっていた模様です。神戸で起こった震災をモチーフにしながらも、直接にその事実を弄うことはなく、ただ魂の揺れ動くさまを描き出した6編の小説が収録されています。
 基本的には村上春樹の語る世界はずっと変わらず、現代以後の人間誰もが抱える根本的な断絶や孤独に焦点をあわせたものであると思います。スタイルや言葉のかたちは、もしかしたら時代とともにゆっくりと変化してきたかもしれない。けれども、やはりこのひとはずっと同じうたをうたい続けているひとであると思います。それを必要とするかしないか、それに気づくか気づかないか、で村上春樹の読みかたはずいぶんと違ってくるのではないでしょうか。
 しかしこのひとは、読み手ひとりひとりに「これが分かるのは自分だけではないか」という気持ち、あるいは「自分はこういう人間を確かに知っている。しかし、これは自分ではない」という感じかたをさせるような小説を書きます。ひとはそういうものと出逢ったときには、感動するか反発するかどっちかなので、この作家に対する毀誉褒貶が激しくなるのも仕方ないことなのかもしれないと思ったりもしました。
 収録作でわたしがとくに好きなのは、突然、妻に去られた男がある荷物を釧路に運ぶことになる「UFOが釧路に降りる」(最後の台詞で、空気がいきなり冷えたかのように本当に恐くなった。しみじみと寒い)、巨大な蛙が平凡な男の前に現れる「かえるくん、東京を救う」(ファンタジックに見えてグロテスク。さりげないユーモアが良い)の二編です。

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