「日本ノ霊異ナ話」伊藤比呂美(朝日文庫)



 詩人であり作家である伊藤比呂美が、日本最古の仏教説話集「日本霊異記」をもとにして独自の作品を創りあげた連作集です。
 いや、良かった。好きではあるけれどなかなか癖のある作家さんのため、読める作品とそうでない作品があるうえに、なおかつ「日本霊異記」とかいわれてもちんぷんかんぷんなわたしなので、大丈夫かなと思ったのだけど、一番最初の「景戒です。ヒツジのようにおろかな僧として生きております」という文章から、すっと入りこむことができた。愛欲というと生々しいですが、しかしそうとしか表現できない情熱や、死者の情念、蛇や蟹やその他多くのこの世のものでないものなどが多く題材として取り上げらています。不思議でなまめかしい、奇妙で醜い、独特の世界を語る文章のちからに圧倒されました。
 わたしのお気にいりは、言葉の単調な繰り返しが恐ろしい効果をもたらしている「行基の子捨て」、独特の風習のなかで育ったために髑髏の声を聞くことができる少女の話「死者のまつり」、蛇に魅入られた少女の肉のうずきとどうしようもない情念を描いた「山桑」でしょうか。奇妙な話、独特の味がある短編などに興味があるかたにおすすめです。

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする