「恋愛詐欺師」岩井志麻子(文春文庫)



 とりあえずまず、吾妻ひでおのカバー絵が実に素晴らしい。エロくて綺麗で可愛い雰囲気たっぷりの絵です。
 内容は、暗い思いに囚われて生きる女性を主人公にした短編集。主役はどれも、弱かったりずるかったり卑怯だったりと、負のパワーに彩られて生きる女ばかりで、そんな彼女らが落ちていく運命をさんざんねちっこい文章で書き出していくので、合わないひとにはとことん合わないかもしれません。もうこれは素直に岩井節だ。が、後味は不思議と悪くない。それは、殺伐とした風景のなかでもどこか静かな綺麗さがあるから。
 惜しくは(岩井志麻子の作品の多くにはそういう傾向があるんだけど)もうちょっと丁寧に描いたらもっといいのに、と思わせるところ。どこがどうとは云えないんだけど、描写が巧いひとだけに、比喩とか美麗文とかを並べていくだけでひとつ物語が書きあがってしまっているところがあるような気がします。これもまた好き好きかもしれませんが。

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