「夜姫さま」高橋葉介(ぶんか社)



 10人の「姫」が登場する幻想的でスプラッタでグロでコミカルで、ただ美しい作品集です。いやもうわたし、自分が一番好きなマンガ家と聞かれたら、間違いなく高橋葉介って答えるわ。巧い人、おすすめな人、色々あるけれど、この絵と作風が好きでならない。
 絵柄が流動的なひとでして、77年のデビュー以来、いま現在も変わり続けているってよく考えたらすごいねこれ。しかしどの時代の絵も高橋葉介のものであり、表層的な描線以外の、芯にあるものは揺るぎない。
 どうやらいま現在お気に入りらしい、木炭というか薄墨というか、を多用した効果と、頁を二分割した構成(なので見開きだと4コマになる)が、実に独特で美しいです。あとがきの「紙芝居を意識した」というのがなんとも納得。で、こういう風に表現したら、マニアックで読む人選ぶ作風に見られるかもしれませんが、わたしはあんまりそう思わないのですね。マイナーとは云われるものの、ヴィレッジ・ヴァンガートで平積みにされることはない、というか(笑)。オシャレじゃないのか…いや、確かにオシャレじゃないんだけど…。読む人を選んではない、むしろ、開けっ放しの扉をお好きにのぞいてください、そこから見えるものがお気に召せばどうぞさらに歩を進めて…そうでなければ静かに扉をお閉めください、というような感じ。
 この本では、それぞれ個性豊かな「姫さま」たちが活躍してはいるものの、スプラッタありラブリイなものありコミカルなものあり純愛あり、と実にバラエティに富んでます。わたしが好きなのは、恋する乙女の表情と太い眉が愛らしい猫姫さま(高橋葉介の猫はどうしていつもこんなに可愛くないんだろう)の、微笑ましい恋の成就(?)を描いた「猫姫さま」、辛すぎる生活を強いられている少女の二重世界を描き、ラストのひとこと「ただいま 闇の王国よ」が絶望的な後味を残す「闇姫さま」、夜の空を飛び回る様が実に愛らしく、同時に少女とは年齢ではなくその性質に宿るものであるということを知らしめてくれる「夜姫さま」、悪意を持った星占いの毒舌が笑いを誘うとともに我が身に置き換えていたたまれなくなる(いえその)「星姫さま」などが好みです。
 あ、あとこの本の中の一編では、葉介ファンなら説明不要の「あのひと」がちらっとゲスト出演もしてますよ。しかしあのひとよく釣りをするけど、釣った魚とか食べたことあるんだろうか。

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