「淫らな罰」岩井志麻子(光文社文庫)



 さて、これは現代物。どこにいても不思議でない女性たちの悪意や歪みがもたらすものを描いた短編集です。
 だからワンアイデアで書いちゃうんじゃないかなあという感じの見える落ちだったり、過去にも読んだことのある設定の焼き直しっぽいのがあったり、といささか点が落ちるのが正直なところです。それこそ大正岡山ものとかが舞台になると、資料を読み込んだり、背景や時代に合わせて文体を整えたりという意味で、筆に慎重さが求められるけれど、現代物ってそれがないじゃないですか。正直、大正岡山ものでも、気をつけないと危ういものが見え隠れするんだから、現代物なんかなおさら。
 けれども、たとえごっちゃ混ぜになっていたとしても、そのごた混ぜのなかには間違いなく宝石も隠れている。だから読みつづけていくんだと思います。実際、隙があるように見えるこの作品集でも、本当にひとの無意識の悪意を描くのが上手い。せこくって、みっともなくって、劣等感いっぱいで、他人を妬む醜い人間を書きながらも、そこには等身大の人間がいる。下手な作家が書きがちな書割の存在としての「嫌なやつ」ではない。
 で、なにより、どうも嫌な予感がするが、わたし、志麻子姐さんと萌えが似てる気がしてきた。姐さんが「いい男」として設定してる素敵な外道男子たちに、つくづくうっとりする。どうしよう。アジア系の男性にはそんなに興味はないのですが…。萌えの共通って大きいな…(なんか底なし沼に沈んだ気分)。

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