「庭先案内(1)」須藤真澄(エンターブレイン・ビームコミックス)



 「ゆず」や「おさんぽ大王」などのエッセイコミックでは、可愛い絵柄と身を張ったネタが絶妙なバランスを見せるマンガ家さんです。わたしはこのひとのエッセイマンガは大好きなんだけど、オリジナル作品はファンタジー色が濃くて、のりきれないときにはピンとこないもので、この最新作もしばらく手をつけずにいました。しかし何気なく開いてみたら、実に良い感じ。
 上質な短編が一個一個味わえる連作形式です。どれもが、実際にあるようでないような、想像できるようで出来ないような日常とかけ離れてはいない世界の不思議を描いていて、非常に入りやすい(わたしが、よくある柔らかい絵柄で優しい架空世界を舞台にした魔法とか出てくるファンタジーが、あんまり得意じゃないせいですが)。ちょっと視線をずらせば二度と同じ模様はできない万華鏡のように、その世界は可愛らしくて美しい。そして、ユーモアがある(笑)。
 わたしが好きなのは、お湯に浸かると髪の色が変化する温泉とその謎を描いた「虹の泉温泉峡」(謎の正体のラブリーさと身もふたもない感じにしばらく笑った)、目が覚めると見知らぬ部屋にいた少女が、そこにある物、現れるひとのことを思い出していくうちにたどり着いたラストの展開が、不思議でちょっとせつない「It’s a small world」、老人の存在が本当に巧く、またその巧さが現実と幻想の合間をうまく橋渡ししているような独特さによって際立っている「遠方より来る」などです。
 しかし、真面目にこういう作風を「S(スコシ)・F(フシギ)」というのかもなあと感じたりしました。微妙に、80年代とかの日本SFの香りがしないでもないのですよね。こういう箱庭風のファンタジー。派手な魔法も王子様もお姫様もいませんが(神はいるな)(七福神だけどな)、ちょっと現実から離れた、優しい世界を楽しみたいかたにおすすめです。

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