「キミは珍獣(ケダモノ)と暮らせるか?」飴屋法水(文春文庫+)



 飴屋法水といえば、東京グランギニョルですが、もちろんわたしは公演を見たことなどなく(80年代に活躍した劇団なので)、雑誌の記事で読んだことがあるにすぎません。近年、古屋兎丸がグランギニョルの舞台作品をそのまま漫画化した「ライチ☆光クラブ」は素晴らしい傑作で話題にもなったので、その関連でこの名前を知ったかたもいらっしゃるのでは。現代美術関連でも有名なかたです。


 しかしこの本は、そういったこととあまり関係はなく、そういう経歴を持つ筆者が、珍獣中心のイペットショップを営んでいた際に得た知識によって語る、珍獣選び・育成指南の書です。もちろん珍獣といっても、興味本位でエキセントリックな匂いのする危険動物について賢しらに語るのではありません。実際にペットショップに並んでいそうだったりいなかったりするもの、名前は知っているけれど、実際に飼っているひとを見かけるのは珍しいものを中心に、実用的なハウツーは語られていると云ってもいいのではないでしょうか(実際にその動物を飼われているかたからしたら、それは色々なご意見もあるかとは思いますが)。
 しかし、そういうハウツーものでありつつも、根底に流れているのは、筆者ならではの「珍獣」という存在に対する確かな価値観と倫理観で、その視点が揺らぐことなく定まっているので、犬猫をはじめとした一般的なペット以外の動物を飼育することにはあまり興味がないわたしにも、とても面白く読めました。
 流れとしては、そもそも「珍獣とはなにか?」ということから始まり、珍獣が珍獣たるゆえん、そのリスクについてもしっかりと語られます。例として挙げられている通り「何かー、安くてー、すんごく珍しくてー、でもよくなれてー、かんだりしなくてー、かわいいのがいいんですけどー、そーいうのいますー?」な問い合わせには「いません」と答えるしかないのがよく分かる。さらに、飼い主に対しての、動物の選び方と種目別に分けられた飼い方レクチャーは、それぞれの特色がよく理解できて、なおかつ具体的な指示やエピソードがあって、これもまた面白かったです。挙げられているのは、ネズミやリスや、キツネザル、フェレットにフェネック、アライグマ、ハリネズミにコウモリにアリクイまで。バラエティ豊かです。ちなみに「珍獣」という言葉からイメージされやすい爬虫類は、飴屋氏の「モノサシ」にかなっていないらしく、範疇外です。
 なかでもわたしがいちばん戦慄したエピソードはミンク。試しに店においてみたところ、金属のケージを自分の歯で噛み折って脱走し、一晩でウサギからチンチラまで殺しまくった、というもの。しかもそれはベビーの頃から筆者がミルクを与えて育てたブリーディングものだった…。やっぱりガンバの冒険は本当だったんだ…。
 
 すらすらと読める分かりやすく達者で面白い文章ですが、ところどころに、思わず頷くような含蓄ある言葉もちりばめられています。たとえばよくお客さんに、「この動物はなれますか?」とたずねられた経験から導き出された「ある動物を気に入るということは、女の子にひとめぼれすることと同じだということ。それで、その動物がなれるかどうかというのは、ひとめぼれの相手に自分が好かれるかどうかということと同じなんです」という見解には深い意味がこめられています。たとえ珍獣を飼うことに興味はなくても、動物を飼うということに関心があるかたなら、読んでみれば得るものはあるのではないでしょうか。おすすめです。

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