「綺譚集」津原泰水(創元推理文庫)



 幻想とホラーの香りがする短編が好きです。それも、いま世に謳われている海外文学の「幻想」ではなく、いささか古めかしい感じに「意味が分かるけれど奇妙に歪んだ」お話がいいのです。たとえば、シャーリィ・ジャクスンとかパトリシア・ハイスミス。もちろん、それからもう少し怪奇的な色合いを濃くしたものも好きです。「ホラーは基本的に勧善懲悪であり、読み手を安心させるためのものである」という意味のことをキングが云っていたように思いますが、ただ残虐なだけのものや救いようのないサイコものは、苦しくて苦手でもあります。そのようなわたしの嗜好からいえば、この短編集はかなりの当たりでした。
 それぞれに濃く味が違い、共通点はまさに「綺譚」であること、としかいいようがない短編が15編収められています。読む人によって好みが分かれるかと思いますが、わたしの一押しはなんといっても「夜のジャミラ」。学校で死んだ少年の霊の一人称で語られる、幽霊生活の奇妙なリアリティと恐ろしさ。かれがこちらをのぞきこんでいる錯覚にかられて、窓の外を見ることができなくなってしまうような語り口と、「怖い」としかいいようがないラストのかれの笑い声。これまでわたしのなかで、「学校の怖い話」ナンバーワンは、ダントツで夢枕獏の「二ねん三くみの夜のブランコの話」(「奇譚草子」収録)だったのですが、抜いたね。参った。


 他には、現実感が微妙にずれていく展開が、凄惨なはずの場面を奇妙なものに変えていく「天使解体」、己の接吻に宿った悪魔の力に煩悶する洋画家の運命を、乱歩や久作の香りも漂う文体で描いた「赤假面傅」、とにかく奇妙で不思議なのだけど地味に怖い隣人の話「隣のマキノさん」(この初出が「牧野修特集」だったことを確認してちょっと吹いた)などが印象に残ったかな。
 
 初めて読みましたが、噂に違わず、とても器用な作家さんだと思います。長編が読み応えがあるそうなので、今度トライしてみるかな。

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