「レッド(1)(2)」山本直樹(講談社イブニングKCDX)



 現在、隔週刊誌イブニング連載中で、単行本が一年に一冊発行されている山本直樹の新刊です。山本直樹というと、エロ系あるいは夢を題材とした幻想的な作風、現代的な若者群像などの作品が知られていると思いますが、この作品はそれらのどれにもあてはまりません。ここで描かれているのは、1969年から72年にかけての日本を舞台に、学生運動から非合法活動に発展した当時の革命運動のなかで生きていた若者たちの運命です。実在の人物、事件、団体名は仮名となり、時に黒ベタで消されていますが、題材となっているのは、「レッド」というタイトルが暗示しているように、いわゆる連合赤軍事件です。
 
 その時代を知っているものならば誰もが思い浮かべる、かれらの最終的な崩壊に進んでいく時計の針が、すべての読者にはっきりと見えるように、この作品では、死んでいくキャラクターには命を落とす順番がナンバリングされています。ごく普通の会話の場面でも、張りつめた空気のなかでも、状況に関わらずキャラクターの頭の部分に添えられた白抜きの数字が、その瞬間を告知しています。同時に、ほぼ毎回、それらのキャラクターが最後にたどりつく場所までのカウントダウンが「高千穂 この時24歳 群馬県山中で死亡するまであと349日」のように付け加えられます。そう、これはすでに過ぎ去った過去の物語。すべては確定された事実で、この物語はそこに到達するまでの過程でしかないのかもしれませんが、結末が知られているからこそ、このかれらがどのようにそこへ行くのかが、圧倒的にスリリングなのです。
 自分たち自身の観念的な言葉に振り回されながら、圧倒的な公権力の力を前に、少しずつ、少しずつ、どうしようもない行き止まりに追い詰められていくかれらの行動と目指すものが、その終末を知っているからこそ、サスペンス極まりない物語となっています。しかし語り口は、ことさらドラマチックに煽り立てるわけではない、非常に抑制されたクールなもの。だからこそ、怖い。この話はあさま山荘或いはダッカ事件まではたどり着くのか不明ですが、正直云って、山岳ベース事件のくだりを、読むときがいちばん恐ろしいです。読まずにはいられないだろうけど、読めるだろうか。間違いなく、そこがこの作品の一番の肝となるのだけど。
 政治的な題材ではありますが、特定の視点に偏ることなく、そういう思想を持った若者達の群像劇として読むことができます。エロが皆無(濡れ場自体は一度あるのですが)なことと、政治的な背景、派手でない抑制された演出などで、山本直樹の作品としては異色に見えるかもしれませんが、その描線は確かに山本直樹のものであるし、ところどころにこれまでの山本作品にみられたとぼけた雰囲気も見受けられます。
 ただ、これまでの部分では、淡々と事実が述べられていくだけの展開ともいえるので、連合赤軍に知識や関心がないひとにどこまで面白いか、と問われると自信はありませんが、むしろまっさらな気持ちで、世界を変革しようと本気で試みたにも関わらず、むしろ自らの世界を閉じていくしかない状況にたどりついていく若者たちの物語として読んでいただければ、なにかを感じていただけるのではないかと思います。そこには時代を超越した、なにかがあるはずです。

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする