「現代百物語」岩井志麻子(角川ホラー文庫)



 ちょっと最近、岩井志麻子が自分内でブーム。半年に一度くらいの割合でこのブームが起きるのですが、そのたびに未読の作品が溜まっているのはありがたい限りです。
 この本は、タイトル通りの実話系怪談を99作集めたもの(100話目はあとがきでございます)。見開きで一話が収録されているため、たいへんコンパクトですらすらと読めます。同じ話やエピソードの再活用(使いまわしという表現はなんとなく使いたくない)が多い作者でありますが、この本では、あくまで印象ながら、既出の話は2割ほどしか入っていません。また、語り口も変わっているので、再読なのが気になりません。岩井志麻子らしく、オカルトめいた幽霊話よりも、人間のちょっとずれた話、そこはかとなく不安な話が多く収録されています。なんといっても、99話もありますので、内容はバラエティに富んでいます。ちょっと壊れたひとの話、風俗業界の裏話、作家志望、タレント志望の困ったひとたち、男女仲のもつれた結果、裏社会の話などなど。
 これだけまとめて読んで、なんとなく自分がなぜ岩井志麻子が好きなのか分かった気がします。わたしが実話系怪談でいちばん怖いと思うのは平山夢明なのですが、かれもまた、ちょっとずれた人間の狂気がもたらす恐怖を描くことが多い。それが具体的な被害として自分の身に降りかかってくる様子がリアルで怖いのが平山夢明で、そこまではいかずに、そういう人間の持ち合わせる奇妙な厭さだけが十分に伝わってくるのが岩井志麻子、のような印象を勝手に持ちました。そのバランスがちょうどいい。
 本当に怖いのは生きている人間、というのはあまりに使い古された言い方であると思います。ただ、わたしが怖いと思うのは、話し合いも意思の疎通も不可能な相手です。それは相手が霊でも生きた人でも同じこと。伝わるはずなのに、伝わらないまま、行き違いの悪意と狂気が自分に向けられることほど、怖いことはありません。
 そして、この本に登場する人々の多くは、その行き違いの狂気を抱えて生きています。自分の真の姿に目を向けずに理想の自分を貪って、生きているといえないような状態で生きているひと、他人への妬みと悪意に自分を食い荒らされているひと、嘘をつくことでしか自分を支えられないひと…、そこにあるのはいつも「自分自分自分」。それらを読むうちに、ここまで極端ではないもの、確かに自分のなかにも息づく「自分」という意識を思います。それはすごく怖い。わたしとかれらを隔てるものはなにだろうかと。そんな風に感じるのは、わたしくらいなのだろうか…。
 

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